猪木 武徳
2006年09月30日作成年月日 |
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2006年09月30日 |
猪木 武徳 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.78) |
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平等は幻想か
近年、日本における所得格差の拡大が取り沙汰されることが多い。議論は、所得格差の拡大があったか否かという問題にはじまり、格差拡大の是非が、現代の産業社会にとって何故重要問題なのかという点まで広げられるようになった。
一九八〇年以降、所得の格差拡大があったかどうかという点については、統計で見る限り、日本では「一般に主張されるほどには大きくはない」という結論に収束しつつある。しかし、所得格差の「拡大があった」こと自体は否定できない。拡大の最も大きい原因は、大竹(二〇〇五)が指摘するように、労働者の高齢化であった。もともと所得格差の大きい高齢者グループの人口に占める割合が高くなれば、おのずと格差は広がった様に見える。その後の九〇年代以降については、特に顕著な賃金格差の拡大は見られない。こうした結論は、データを丁寧に加工し計算すれば、大騒ぎするほどの(英国や米国での格差拡大ほどの)実態はないという主張に落ち着く。
しかし、次の点は見逃してはならないであろう。一つは、若年層に限定すると、学歴間の賃金格差は広がったことである。高学歴者に比して学歴の低いものの賃金が、以前より低下してきた。さらに高学歴者の中高年層の間では、格差は開き気味であることも報告されている。一般法則として、不況期には賃金格差は広がる。好況期内は労働市場が逼迫するので、技能レベルの低い労働者の賃金が上昇するから、格差は縮小する傾向がある。しかし、不況になれば低熟練労働の市場ほど需給が「緩む」結果、格差が拡大するのである。