八代 尚宏
2006年09月30日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
---|---|---|---|---|---|
2006年09月30日 |
八代 尚宏 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.78) |
ページ内にあります文章は抜粋版です。
全文をご覧いただくにはPDFをダウンロードしてください。
はじめに
小泉政権の構造改革の結果、経済の効率性は高まっても所得の格差が拡大し、「不公平な社会」になったということが、あたかも「常識」であるかのように語られている。しかし、特定の事業者を対象とした利権の温床である規制や保護主義を撤廃し、自由な競争市場を目指した構造改革が、どのようなメカニズムで格差を拡大させるのだろうか。それは暗に、これまで規制に守られていたグループによる既得権保護の論理ではないだろうか。
市場で生じる所得格差は、需給の不均衡を反映したひとつのシグナルであり、自由な取引が保証されていれば、それを縮小させるような自動的なメカニズムが働き、経済全体が発展することが市場社会の優れた機能である。これを十分に発揮させるとともに、格差の固定化を防ぎ、再チャレンジの容易な社会にしていくことが、本来の構造改革の目的である。
九〇年代後半期以降の失業率の高まりや生活保護を受給する貧困世帯の増加は、構造改革の結果ではなく、九〇年以来の長期経済停滞による面が大きい。経済が不況の状態にある時には、消費や投資需要を刺激することで、生産と雇用を拡大させる余地が大きく、その結果、失業者が減ることで、経済の効率性と所得の平等化を同時に達成させることができる。今後、構造改革をさらに進めて、新しいビジネスを発展させ、多様な雇用機会を拡大させることが、格差を固定化させないためのもっとも有効な手段となる。