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情報誌CEL

本田 由紀

2006年09月30日

本の万華鏡"生活者の格差論"を紐解くヒント

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媒体(Vol.)

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2006年09月30日

本田 由紀

住まい・生活

ライフスタイル

情報誌CEL (Vol.78)

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『変化する社会の不平等―少子高齢化にひそむ格差』

白波瀬佐和子編 東京大学出版会 二〇〇六年

 本書の各章では、急速に少子高齢化が進む日本社会において顕在化しつつある様々な「格差」について、データに基づく丹念な検証が加えられている。取り上げられる現象は、不平等感、世帯構造とジェンダーによる経済格差、中年齢無業者、義務教育費の地域間格差、健康格差、金融資産格差、年金制度がもたらす格差など多岐にわたる。

 本書のキーワードである少子高齢化とは、子供や若者が減り、高齢者が増えることを意味しているだけではない。それは、両親と子供からなる「典型的な」世帯の比率が相対的に減少し、子供がいない夫婦、一人暮らしの高齢者や若者、女性を世帯主とする世帯など、「典型から逸れる」世帯の増加を不可避的に伴っている。さらに少子高齢化と同時に進行している雇用の不安定化は、非正規就業者や無業者など、就業形態に関しても「典型(正社員)から逸れる」存在を大規模に生み出している。そして本書の各章の分析は、こうした「典型から逸れる」人々が、高い経済的リスクを負いがちであることを描き出している。

 学校を出て正社員になり、結婚して子供を持つという「典型的な」ライフコースと、経済の順調な成長を前提にすることができていた時期においては、第一に世帯の収入源が安定していたことにより、第二に本人世代に「格差」が存在しても子供世代で相殺できるという可能性が信憑性を持っていたことにより、「格差」の問題は、客観的現実においても、主観的意識においても、それほど苛烈なものとはならずにすんでいた。しかし今、そうした過去の前提は失われつつある。その際に、不可欠となるのは、社会福祉サービスによるセーフティネットの整備と、個々人の人生のスタート時における諸条件の均等化およびスタート後の軌道修正チャンスの保障である。しかし社会変化のあまりの急激さから、それらの課題の直視と対策の整備は遅れており、「格差」をめぐる不満ととまどいのみが日本社会に沈殿しつつあるかのようだ。

 

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