井口 貢
2006年03月25日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2006年03月25日 |
井口 貢 |
都市・コミュニティ |
地域活性化 |
情報誌CEL (Vol.76) |
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『東区 橦木町界隈』
西尾典祐著 健友館 二〇〇三年
「観光都市」と「都市観光」。この二つの概念の間に横たわる差異を認識することから、都市を巡るオルタナティブな旅の考察が始まるのではないだろうか。また観光立国を目指すわが国にとっても、この両者を峻別することは必要不可欠な作業である。
周知のように、「観光」という言葉の源は、「国の光を観る」(『易経』)ことにある。地域やまちのかけがえのない文化や、それを守り継承してきた(している)人々を光と捉え、その代替不可能な価値を十二分に認識し、来訪者に対しては矜持をもってそれを示し、また来訪者は、心を込めて地域の宝物を観つめて何かを学びとる。そして、そこから始まる知的交流こそが観光の本義であり、醍醐味でもある。たとえ多くの人が「観光都市」と呼ぶことのないまちでも、人々が永きにわたってそこに住まい積み重ねてきた生活文化や暮らしの記憶は必ず存在している。それこそが、そのまちの「観光素材」であり、そのまちでしか味わうことのできない「都市観光」を演出するのである。「素材」を、あたかも“でっち上げる”ような安易な手法で「観光都市」をもくろむ方途は、多くの場合、地域社会に真の幸福をもたらすことはない。
幕の閉じた「愛・地球博」とともに、昨年は一大「名古屋ブーム」の年でもあった。しかし、このブームは一朝一夕で起きたものではない。確かに、誰も名古屋を観光都市とは呼んではこなかったかもしれないが、尾張徳川藩の自由な藩風が育んだモノづくり(からくり人形に象徴されている)の伝統は、結果として東京にも大阪にも、そして京都にもない独特の都市文化を形成してきた。