山下 満智子
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2005年12月25日 |
山下 満智子
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住まい・生活 |
食生活 |
情報誌CEL (Vol.75) |
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家庭の団欒と食卓
団欒の形成
家庭の団欒は、食卓を囲む風景に強く結びつく。しかし実は、これは日本古来のものとはいえない。大正時代の社会学者である堺利彦は、その著「家庭の新風味」(※1)で、家庭の団欒について「一家だんらんの趣は、最も多く食卓の上に現れる」、「一家のものが一つ食卓を囲んで、相並び、相向かい合って、笑い、語り、食い、飲む、これがもしないならば、家庭の和楽の半分は減じてしまうであろう」、「夕食は最も楽しき最もにぎやかなるだんらんである。…酒もある、菓子もある、一日中で最もごちそうがある」と述べた。
堺利彦の「家庭の新風味」について、国立民族学博物館・前館長の石毛直道氏は、「身体維持のためだけの手段として食事を捉える禁欲的な食事観を否定し、食事を積極的に楽しむことを通じて『だんらん』の場を形成することを主張したことに注目している」と語る。
”日本の家庭の一つ食卓を囲む団欒像“は、堺利彦の「家庭の新風味」などによって、それまでとは違った食事観のもと大正時代に作られたものなのだ。
現代の食卓は、孤食(一人の食事)や個食(同一の食卓で違うものを食べる)が決して特殊な状況でなく、当たり前の風景となっている。そのような食生活をおくる現代においても、この堺利彦が「家庭の新風味」で描き出した「一つ食卓を囲む団欒像」は、強い影響力を持っているのではないだろうか。