清水 英範
宮川 公男
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2005年06月30日 |
清水 英範
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都市・コミュニティ |
コミュニティ・デザイン |
情報誌CEL (Vol.73) |
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対談
現代社会におけるソーシャル・キャピタルの役割
宮川 公男 Tadao Miyakawa 麗澤大学国際経済学部教授、(財)統計研究会理事長、一橋大学名誉教授.
清水 英範 Hidenori Shimizu 大阪ガスエネルギー・文化研究所 主任研究員
現代社会では、社会的な触れ合いなど、従来のコミュニティの創造が難しくなってきている。いわゆる「匿名性」が高い社会の進展により、都市と生活者に、これまであまり見られなかったような、様々な弊害が生まれている。こうしたことから、近年、「ソーシャル・キャピタル」という概念が注目されている。
日本ではこれまで、地域のつながりの中で自然に芽生えてきていた、いわゆる「社会関係資本」が都市では消失しており、この再構築が、都市における様々な問題解決に役立つといわれている。また、それだけに止まらず、このソーシャル・キャピタルの存在が、地域の課題解決をはじめ、まちづくりのパフォーマンスを大きく左右する。あるいはソーシャル・キャピタルを形成する仕掛けや仕組みづくりが、都市や地域の活性化のためには欠かせない条件であることが、各地の事例を通して認識されてきている。
そこで今回は、経済学の視点から、都市と生活者を取り巻く成熟社会の課題に関して、ソーシャル・キャピタルが果す役割について、経済学の専門家である宮川公男教授にお話をうかがった。
パットナムの論文をきっかけにソーシャル・キャピタルに着目
清水 先生の著書の中に、ずばり『ソーシャル・キャピタル』という題名の本がありますが、先生がソーシャル・キャピタルに注目されるようになったきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?
宮川 ソーシャル・キャピタルというのは、そのまま訳せば「社会資本」ですが、私はかねてから社会資本という言葉の使い方はおかしいのではないかと、別の関心から問題意識を持っていました。それはなぜかと言いますと、今、話題になっている行政改革で、国のバランスシートをつくる際に、道路、港などハードなインフラを「社会資本」と呼んでいるわけですが、それらは「資本」ではなく「資産」であるということからでした。シートの左側に載るのですから「社会資産」と呼ぶべきではないか。「社会資本」というのは、国民、市民が共同体である社会を成り立たせるために拠出するお金のこと。会社の資本と同じで、それを使って道路とか、港とか、そのお金をどういうふうに振り向けるかというのが、まさにバランスシートの左側の資産であるのに、それを「社会資本」というのはおかしいと言っていたのです。その後に、英語の「ソーシャル・キャピタル」という言葉が、そうではない別の意味に使われていることを知りました。清水 ロバート・パットナムの論文「ボーリング・アローン:アメリカにおけるソーシャル・キャピタルの衰退」(一九九五年)に触れられたのがきっかけですね。二〇〇〇年にはその論文を増補した本が出版されており、そのことも契機となってここ数年のうちにソーシャル・キャピタルについて国内外で広く論じられ始めたのですね。