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弘本 由香里

2008年09月01日

近代建築に宿る農の心

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2008年09月01日

弘本 由香里

都市・コミュニティ

まちづくり

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産経新聞夕刊「感・彩・人コラム」

ページ内にあります文章は抜粋版です。
全文をご覧いただくにはPDFをダウンロードしてください。

優れた人智の多くは、時代の変わり目に登場しているように思う。

身近な例だが、伝統の技の豊かな土壌と、近代の新たな建築技術との出会いは、全国各地に数々の名建築を生み出した。

空間や意匠の一つ一つに、外来文化の衝撃を、自らの心と体、風土に引き寄せながら、受容していこうとする、格闘と夢の痕跡を見てとれる。そこに普遍的な美しさと迫力が宿るのだと思う。

とりわけ、民間の近代建築の多くは、時代の激変期に気高く向き合った、経営者たちの哲学とそれを具現化した建築家や大工・職人たちの人生を物語っているかのようで興味が尽きない。

そんな魂のこもった建物の一つを、20数年ぶりに訪ねることができた。兵庫県加古川市の別府港に面して立つ「多木浜洋館(通称あかがね御殿)」である。大正7年着工、昭和8年竣工。多木化学株式会社の創立者、多木久米次郎氏が迎賓館として建てた洋館だ。

久米次郎氏は、魚肥を商う旧家に生まれ、長じて日本の食料増産を志し、本邦初の化学肥料を開発。安価な肥料を全国に普及させ、農

業振興に力を尽くした。洋館の内部、大広間は桃山風の格天井で、野菜や果物の浮き彫りが鮮やかだ。作物への畏敬の念と愛情の深さをまっすぐに伝えて、すがすがしい。

 

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