豊田 尚吾
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2008年05月12日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
日刊工業新聞 |
半歩先を見る生活者論/倫理的消費(5)「正義実現は他社との連帯感から」
2008/05/12 日刊工業新聞 27ページ 949文字
エネルギー・環境など、社会の効率を低下させるような課題への配慮行動について述べてきた。しかし倫理的消費を考える場合、このような視点だけでは十分ではない。例えば、効率以外に分配がある。
現在、生活者の多くは社会の格差が拡大しつつあると感じている。格差問題は経済成長すれば、自然に解決するような課題ではなく、所得や資産の分配問題を避けて通れない。これは前回までのように、効率や効用という価値基準で判断できるものではなく、社会の「正義」とは何かが問われる問題である。
しかし効率の実現では有用な経済学も「量的・形式的レベルでの効用という非常にシンプルな価値理念だけで経済の規範問題を片付けてしまう」ために「パレート最適という発想の根幹を成す効用主義の枠を超えることはない」(山脇直司著「経済の倫理学」)。これは経済学が正義を実現する倫理と遊離し、分配の問題に関してはあまり役に立たないことを指摘したものと理解できる。
社会には個人の自由を何よりも重視して私有財産権の侵害を忌避する人もいれば、社会保障という観点から自由の制限に対してある程度寛容な人もいる。共同体内の共通善を尊重すべきという考えの人も多い。社会制度のあるべき姿(≒正義)に対する基本的な考え方が異なり、合意形成は難しい。多数決による形式的な政治的合意だけでは意見の対立を解消し、社会の紐帯(ちゅうたい)を太くする倫理は生まれてこない。
ではどうするのか。実感としての他者との連帯感にヒントがありそうだ。当研究所によるアンケートでは、個人の所得が他者のおかげでもあると考えている人が半分近くいる。どんなお金持ちもしょせん一人では何もできない。ほかの人々と助け合いながら生活せざるを得ないのが現代の分業社会である。したがって格差があまりに広がって、自分以外の人の生活が成り立たなくなれば、結局それが自分自身の生活にも跳ね返ってくる。
アンケートにも地域社会に貢献したいという強い思いが表れている。一方で、地域社会との積極的なかかわりを感じている人は必ずしも多くない。そこで、次からは地産地消のような、地域社会との関連で倫理的消費を考えてみたい。それは地域で活動する企業にとっても参考となるに違いない。
大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾