弘本 由香里
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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備考 |
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2008年05月12日 |
弘本 由香里
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都市・コミュニティ |
まちづくり |
新聞・雑誌・書籍 |
産経新聞夕刊「感・彩・人コラム」 |
4月下旬、大阪都心部の自宅マンションで、猫の額ほどの小さなバルコニーにプランターを並べ、玉造黒門越瓜(たまつくりくろもんしろうり)の種を蒔いた。貴重な種を提供してくださったのは、玉造黒門越瓜の復活に力を注がれている、玉造稲荷神社さん。
越瓜は古代中国の越(えつ)の国が原産地で、江戸時代には大阪城玉造門(通称黒門)界隈で盛んに栽培されたという。とりわけ粕漬けは、大阪名物として人気を集めたらしい。
けれど、明治以降、都市化が進み、食品の流通も激変。玉造界隈でも畑が次々と姿を消し、越瓜もまた、近代化の波に飲み込まれていった。その後100年以上の時を経て、かつての産地・玉造に戻ってきたのである。
今、玉造稲荷神社の瓜畑ではすくすくと越瓜が育ち、毎年7月15日には「玉造黒門しろうり食味祭」が開催される。地域の有志による玉造黒門越瓜出隊が媒介役になって、学校や家庭での栽培、食のイベントへの参加、お料理やお菓子の創作など、関わる人の輪も年々広がっている。
個性あふれる地野菜の姿形や味わいには、まちの歴史と文化が詰まっている。地域に根差した暮らしやまちづくりへの願いが、復活の物語の中に込められている。小さな種を手に思う。