豊田 尚吾
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2008年05月05日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
日刊工業新聞 |
半歩先を見る生活者論/倫理的消費(4)「共通の善構築」企業も意識を
2008/05/05 日刊工業新聞 15ページ 982文字
エンジンとモーターの併用で、燃費の向上と環境負荷の低減をうたったハイブリッドカーは97年、市場に登場した。高機能のため、価格は一般の車よりも数十万円高い。それでも05年にはホンダが世界販売累計10万台、07年5月にはトヨタ自動車が100万台を突破し、その後も年間40万台程度の国内生産を実現しているとのことだ。
当研究所のアンケートによれば「ハイブリッドカーを利用したい(している)」という回答者は全体の68%であった。その理由の第一は「環境への負荷が低減できる」であり、「経済的に有利である」を大きく上回った。利用したくない場合の理由でも「車の生産過程まで考えると、本当に環境にやさしいかどうかわからないから」など社会的な配慮に基づいた意見が、その他回答92件のかなりの割合を占めていた。このような環境保全といった倫理的課題に対する関心の高さの背景には何があるのだろうか。
私たちは価値あるもの(効用)を効率的に得るために市場を活用している。しかし市場の機能は不完全である。外部不経済性はその一例であり、そこにエネルギー・環境問題が含まれることは前々回に述べた。近年、この問題がますます深刻化し、市場経済に対する信頼感を揺るがしている。ひいては社会の秩序維持に対する懸念につながっている。これこそが人々の共存という倫理に対する生活者の関心を高めているのである。
もちろん、倫理観のみに頼る方法では限界があり、法律や制度と組み合わせてこそ実効ある施策となる。効用という価値を効率的に実現する制度は、民主主義的手続きを経て合意しなければならない。「共通な善とは何か」との合意を得る際に倫理の果たす役割は大きい。特に地球環境問題は「自己の利益のみならず将来の他の人々の利益を自らの良心に従って比較する問題、つまり人間としてどうあるべきかという倫理判断によって解決されなければならない問題」(柴田弘文著「環境経済学」)なのである。
倫理的消費という営みは、他者の利益を実感できる機会を提供し生活者を啓発する。企業も財・サービスの提供を通じてそのような共通の善構築に主体的にかかわっている存在だという意識を持つことが、企業の社会的責任(CSR)やコンプライアンス(法令順守)に対する独自の理念を構築するための助けにもなるはずだ。