弘本 由香里
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研究領域 |
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備考 |
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2008年03月30日 |
弘本 由香里
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都市・コミュニティ |
まちづくり |
新聞・雑誌・書籍 |
大阪府文化団体連合会『大阪府文化芸術年鑑2008年版』 |
地域社会の激変期を振り返る
人口減少社会が現実のものとなり、少子高齢化とともに世帯の小規模化も進んでいる。いまや、いわゆるファミリー世帯でなく、夫婦のみや単身の世帯が多数をなす地域社会が一般化してきている。同時に、社会・経済のグローバル化によって、人口の国際化も一気に進んでいる。つまり、地域文化を構成する社会単位のあり方自体が、激変してきているということである。こうした観点を抜きにして、現代そしてこれからの地域文化を語ることはできないだろう。
個人化が進む社会と暮らしは、孤立化というリスクと背中合わせである。他者との関係の希薄化は、個人のアイデンティティ確立の難しさ、生命の連続性の実感の乏しさ、多世代・多文化間のコミュニケーションの断絶、そしてソーシャル・キャピタル(社会規範や信頼関係、社会的紐帯などの社会関係資本)の弱化にも及んでいく。
地に足のついたローカルな営みと、グローバルな社会における自らの立ち位置と、その両者をつないでとらえるまなざしや、個を基点としながら、他者とのオールターナティブなつながりのデザインを切実に必要とする時代を、現代の生活者は生きているといってもいいだろう。地域社会のあらゆる場面で、異なる価値観を越境し受容する、多文化共生の姿勢が欠かせないものとなる。一方で、変化が激しく孤立化が進む社会になればなるほど、地域の記憶や知恵を蓄積していく文化装置や、ゆっくりとしか変化しない自然や幾世代にもわたる時を重ねた歴史資源が、人々の支えやつなぎ手、いわばパートナーシップの媒介としての価値を発揮する。
地域文化をめぐって、この十年を振り返ると、上記のような社会の激変期の様相が個々の事象の背景に浮かび上がってくるのである。