豊田 尚吾
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2004年09月01日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
(財)統計情報研究開発センター「ESTRELA」2004年9月(No.126)所収 |
─ 年収300万円時代を考える─
「生活」という言葉は暮らし全体を包括する広い概念である。重要な生活の一部に、お金を稼ぎに働きに出るということがある。労働は賃金を得るという意味で、生活に不可欠なキャッシュフローの源泉とも言える。そこで今回は、雇用や労働について論じる。中でも生活との接点に位置し、昨年の新語・流行語大賞の中にも選ばれた「年収300万円(時代)」という言葉に注目する。これは簡単に言えば、日本経済の構造改革によって、所得格差が広がり、従来では考えにくいような高額所得者も増える代わりに、一般サラリーマンの年収の主流は300万円程度にまで下がっていくとの主張である。
本稿では、この主張を考察のヒントとし、生活者にとっての戦略的な雇用について論じていく。そこでの問題意識は、第1に、年収300万円時代論が妥当かということである。第2は、もし別の展望があるとすれば、どのような時代が予想され、それにどう対処するべきかということである。これらに関し考察を行った。そのポイントは以下のとおりである。次節で年収300万円時代論が主張するロジックを本稿なりに解釈する。第3節においてその妥当性について検討を行う。そこでは、労働サービスが他の財とは異なる特徴を持っていることに注目する。労働サービスの長期的な生産性の向上に、内発的な動機付けが大きくかかわっていることを重視し、極端な形での格差拡大にはブレーキが掛かるのではないかと結論付ける。第4節では、年収300万円時代とは異なる、本稿としての将来展望を提示する。すなわち、労働サービスがより一層、厳しく評価さ
れると考え、生活者がそれにどのように対処していくべきかを論じる。その中で、ポジショニングの重要性に注目する。そして第5節では、企業と同様に生活者にもポジショニング戦略が必要であることを主張する。そして、幾つかの例を挙げながら、生活者が取り組むべきポジショニングの方法論について提案を行う。