弘本 由香里
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2003年10月31日 |
弘本 由香里
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都市・コミュニティ |
都市居住 |
CELレポート (Vol.19) |
近世から近代へ、大阪のまちを構成し、その活力を支える基盤として圧倒的な存在感を発揮してきた大阪の長屋。優れた都市住宅として、他に類を見ないほど多様な発展を見せ、開発の波に洗われながら、現在もなお大阪の典型的な住まいとしてまちのあちこちに生き続けている。
今、大阪市内の各所で長屋再生が注目を集めているが、それは、過去形で振り返る歴史的価値の再生ではなく、過去から現在を経て未来へと続くリアルな都市と住まいの物語としての意味を孕んでいるはずだ。大阪の長屋再生を通して、現代の都市問題・住宅問題にアプローチし、それを解く鍵を見つけることができないか。そこに住み・暮らす主体の側から、都市づくりのシステムを組みなおしていく、都市再生の核心を、長屋再生ムーブメントに読み取ることができるのではないだろうか。それが、本稿の出発点である。
まず、長屋をめぐる考察の導入として、大阪の長屋における歴史の連続性と多様性に焦点を当て、その特性を大まかに概観したうえで、大阪市内都心部にあって奇しくも戦災を免れ、今なお長屋で構成された街区の姿をふんだんに残す、空堀商店街界隈(中央区)及び中崎町界隈(北区)での長屋再生の動きにスポットを当て、その意味を読み解いてみたい。
大阪長屋における歴史の連続性と多様性
1)長屋再生が意味するもの
歴史的建造物の再生や、その活用を核にしたまちづくり自体は、地域におけるアイデンティティ再構築のムーブメントとして、全国各地で数々の個性的な取り組みが見られ、決して珍しいことではない。けれど、大阪における長屋再生は、単純な歴史的価値の再生と活用という枠には、とうてい納まりきらない複雑な問いを提起しているように感じられてならない。なぜだろうか。背景に、大阪の長屋が、近世から近代そして現代もなお、大阪の典型的な住まいとして存在し、各時代を通して、圧倒的多数が長屋暮らしを直接間接に体験してきたという意味の広がりがあるからである。