弘本 由香里
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2003年09月30日 |
弘本 由香里
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住まい・生活 |
住生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
大阪府立女性総合センター『DAWN』2003年秋号 |
20世紀半ばから女性の労働力化に力を入れてきたから、北欧の福祉政策は進んだのだといわれる。女性が働きやすいように、保育や介護など家庭内で担われていた仕事を、早くから社会化していく必要性が高かったというわけだ。そんな北欧諸国の中でも、とりわけノルウェーは、女性が最も早く参政権を獲得し、今では女性議員数が約半数に及ぶことを誇りにしている国である。
それだけに、ノルウェーでは女性団体の自治への参画度も高く、住宅・福祉政策にも大きな影響を与えている。その記念碑的な事例を、数年前に訪ねたことがある。ノルウェーの首都・オスロ市内、ニュータウンの一角にある、「Holmlia」と名づけられた、ソーシャルミックス型のコレクティブ・ハウジング(協同住宅)。1975年、三つの女性関係団体とノルウェー・コーポラティブ住宅協会連盟(NBBL)の協働で実現したプロジェクトだ。
女性の社会参加とともに求められてきた、家事労働の合理化・平等化への対応だけでなく、シングルやシングルペアレント、外国人や高齢者など、既存の住宅政策からもれがちな居住者層の住まいのニーズにも、ともに応えていこうという理念で計画されている。日本では、生活の一部分を共有するコレクティブ・ハウジングはマジョリティの居住スタイルではないという話に終始してしまう傾向が強い。実のところ、北欧でもコレクティブ・ハウジングはマジョリティの居住スタイルとはいえない。しかし、北欧の事例に学ぶべきなのは、マジョリティにはなり得ない少数のニーズに対しても、政策のチャンネルが開かれるべきだという、理念やアプローチの手法が存在していることである。
建設から既に四半世紀を経ているコレクティブ・ハウジング「Holmlia」だが、その姿は自信と親しみに満ちている。当初の計画に携わった女性が、胸を張って案内してくれた。38戸の住宅に、共有のキッチンや食堂、集会室、ホビールームなど18もの協同エリアを持ち、保育所も併設している。不用品を互いに交換できる、リサイクルコーナーもある。様々な年齢層の世帯で構成される居住者は、時とともに少しずつ入れ替わっているが、きれいに手入れされた内部の雰囲気から、しなやかな運営が継続されていることが伝わってくる。