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弘本 由香里

2002年02月01日

毎日新聞夕刊コラム「風の響き」(4)

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2002年02月01日

弘本 由香里

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もうすぐ節分。冬から春への変わり目を示す「節分」は、一年の循環の中で最も心になじむ節目の一つだ。「鬼は外、福は内」の豆まきに代表されるように、古来節分には、災いのない豊かな季節の到来を願って、さまざまな行事が行われてきた。豆まきには、邪鬼を払うとともに、恵みを分け合い無用な争いを避ける意味が込められているという。

節分の夜に、絵馬を掛ける風習をモチーフにした能「絵馬」もある。午年の今年、運良く大阪能楽会館で、この能を見る機会に恵まれた。伊勢の斎宮を舞台に、老翁と姥がそれぞれ白と黒の絵馬を持って現れ、物語が始まる。姥は雨露の恵みを受ける黒の絵馬を掛けようと主張する、一方老翁は太陽の恵みを受ける白の絵馬を掛けなければと反論する。

そこで二人が導き出す結論がいい。“ こんなふうに互いに争っていては、いっこうに埒が明かない。ここは二つの絵馬を掛けて、雨をも降らし、日をも待って、万民が楽しむことのできる世にしよう”と、例年一つ掛けていた絵馬を、この年始めて二つ掛けることにするのである。

一見単純なストーリーだが、二つの価値観を持ち寄って争いながら、やがてその両方を受け入れていく過程が、象徴的に描かれている。白か黒かではなく、白も黒もあることが幸せなのだという価値観へと昇華する様は、今、ともすると一つの価値観で勝ち負けを決しようとする時代の中で、第三の道の知恵を思い起こさせてくれる。

節分の夜、未来を思って、老翁や姥、あるいは鬼の気持ちになってみるのもいい。

 

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