弘本 由香里
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2000年06月30日 |
弘本 由香里
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都市・コミュニティ |
まちづくり |
情報誌CEL (Vol.53) |
地域の時代の到来〜生活・文化・産業の再統合へ〜
今年(2000 年)4月の地方分権一括法の施行や公的介護保険制度のスタートに象徴されるように、「地域」という枠組みによる、社会システムの再編が試行を経ながらも着実に進みつつある。
地域の時代の到来は、ひとつには近代化(工業化・都市化)の過程で起きた、人と自然環境・社会環境との関係の断絶による、環境破壊や個人の社会的孤立など、さまざまな社会の課題を克服するための大きな時代の潮流と見ることができるだろう。また、生活者個人個人の立場から見れば、身心の自立を支え、生活の質を高めることを可能にする、成熟社会への移行過程そのものが、地域を単位にした「まちづくり」の潮流と捉えることもできる。
大量生産・大量消費型の工業社会は、大量の労働力の供給と消費の拡大のために、都市への人口集中を促すとともに、生産と消費の場、職と住の場の分離を押し進めてきた。言い換えれば、本来一体のものであるはずの、人の生活と文化と産業の関係が、ばらばらに切り離されてきたのである。しかし、今後展開するであろうポスト工業社会では、工業化の過程でいったん分離された、地域における人の生活・文化・産業の関係が、再び生活の全体性を支えるものとして、生活の質を希求し、再統合される流れをたどっていくのではないだろうか。生産と消費の場、職と住の場の接近も始まり、地域を単位にした自立・連携型の社会への再編が進むと見てもよいだろう。
こうした社会の変化に先駆けて、1970年代後半から、地方自治体が独自にそれぞれの地域における文化行政を展開しはじめたのは、振り返るに値する出来事だろう。「文化」という、生活を貫く横断的な視点が自治体行政に取り入れられ、地域の自律的かつ横断的なまちづくりに先鞭をつける役割を果たしたという事実である。
文化経済学の池上惇氏は、その著書(『情報社会の文化経済学』1996)の中で、これからの社会における、生活・文化・産業の再統合の流れを示すとともに、産業の進化を第一次産業、大二次産業、第三次産業への発展と把握することが、就業人口構成の量的把握にとどまることに言及。各産業の供給する財やサービスの質的な変化を把握する必要性を説いている。