豊田 尚吾
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
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1999年07月01日 |
豊田 尚吾
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エネルギー・環境 |
環境対応 |
CELレポート (Vol.2) |
要約
・理論として取り扱われる「排出権取引」とは異なり、実際の排出権取引市場では完全競争の前提は満たされない。特に当社のような公益事業が市場参加者である場合、限界費用で価格設定が行われないため、排出権取引が本来目的とする効率性を損なったり、他の企業との競争条件に影響を与える可能性がある。
・第3章では、限界費用原理で価格設定が行われる企業と、平均費用原理で価格設定が行われる企業が、排出権取引制度が導入された場合に直面する、市場均衡点の変化を単純なモデルを用いて考察する。その結果、平均費用原理を採用している企業の方が製品価格の上昇は抑えられ、限界費用原理を採用している企業との相対的な競争力に影響を与える可能性があるという、当然の結論を得るが、その程度をパラメーターの関数として表現している。
・第4章では、前章でのナイーブな議論から、もう少し現実に近づくため、費用逓増に直面する一般的な企業と、費用逓減に直面する企業が寡占市場で競合した場合の帰結を、2段階ゲームのsubgame perfect 均衡の導出という形で検討している。その結果、費用逓減に直面する公益企業であっても、市場での競合が存在すれば、排出権取引制度の導入は相対価格や均衡点に無用な歪みを与えないという結論を得る。価格競争力に影響があるとしても、それは温室効果ガス削減という政策目標に整合的なものであって、価格への不当な歪みと区別して考えるべきと言うことが示唆される。これは第3章での懸念を緩和するものである。ただし、考察したモデルにはまだ改善すべき余地があり、これだけで性急に結論づけることは慎まなければならない。