情報誌CEL
減災ストーリーブック『いのちをまもる智恵』が問いかけるもの― その原点と願い
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
2010年01月08日
|
栗田 暢之 |
都市・コミュニティ
住まい・生活
|
まちづくり
コミュニティ・デザイン
ライフスタイル
|
情報誌CEL
(Vol.91) |
|
ページ内にあります文章は抜粋版です。
全文をご覧いただくにはPDFをダウンロードしてください。
2009年夏のある被災地での出来事である。「わずか200m先の指定避難場所へ避難するだけだった。しかしすでに濁流が道路を覆い、行く手を阻む。すでにどこからどこまでが道なのかもわからない。しかもあたりは真っ暗である…」。そして翌朝、マニュアルどおりにロープで互いを縛った親子の溺死体が発見された。
毎年のように起こるこうした災害での悲劇が後を絶たず、ここ数年だけでも災害で犠牲となられた方々の何と多いことか。苦しかったろう。痛かったろう。無念だったろう。まずは心よりご冥福をお祈りしたい。そして、災害救援NPOとして、自らの力不足を悔いるとともに、次の犠牲者を出さないために、もっと全力で「減災活動」に取り組む必要性を痛感している。ただし堤防をより高く強固なものにするとか、延焼を防ぐように道路や公園を整備するなど、都市計画等ハード面の課題については専門家にお任せすることにするが、私たちが力点をおきたいのは「人間の災害対応力を高める」というソフト面である。つまり、過去から培われてきた「智恵」を駆使し、私たち自身の「生き抜く力」を高め、災害からいのちと暮らしを守ろうということである。
私はこれまで約30の災害現場での活動に携わってきた。その被災地で少し気になるのは、災害後に取り沙汰される反省や教訓じみたものが、行政批判または行政による災害対応への期待ばかりが取り上げられ、肝心の私たち自身の再確認・点検につながっていないのではないかということである。確かにかけがえのない「いのち」を守ることに対して、行政が全力を尽くすことは当然である。しかし、それに頼り過ぎて私たちがお客様でいいということではないはずである。なぜなら私のいのちであり、私たち自身が暮らす地域のことだからである。私たちの大切ないのち・暮らしの問題を他人任せにしていいはずがないことは言うまでもない。