情報誌CEL
CEL TOPICS サルは何を食べてヒトになったか
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
2010年01月08日
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山極 寿一 |
住まい・生活
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食生活
ライフスタイル
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情報誌CEL
(Vol.91) |
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私は30年ほど前からゴリラの研究をしている。ゴリラは、アフリカ大陸の真ん中あたりの熱帯雨林に暮らしているが、そこは湿気があり、温度も高い。とはいえ、雨がどっと降ると結構寒くなる。ゴリラも、雨が降り出すと、木の洞に入るなどして濡れるのを避ける。私が先客で洞にいると、ときにはゴリラも入ってきて、ゴリラと一緒の雨宿り。
時々現地の人とも遭遇する。彼らは昔から狩猟採集生活をする人たちで、必ず火をつくる道具を持ち歩いている。最近はマッチをビニール袋に入れて携帯しているが、かつてはこすり棒とその台木。それを、雨が降ってくるとやおら取り出し、かがんで棒を辛抱強くこすって火をつける。つけ方は、非常に繊細。枯れた草をちょっと上に置いて、火種をだんだん大きくしていく。上に葉を被うようにすると、下の火が上の葉を乾かしながら次第に燃え上がる。
火を維持するには、小さな火を絶えず側に置いておくのがよい。そういうところでは、火は本当に暖かい。ゴリラなら体をゆすって水を飛ばすが、人間は火を使う。火によって体は乾くし、心も温まる。
人は火を使い、ゴリラは火を使わない。現在に至る長い進化のある時点で、人間は火というものを手に入れた。そしてそれは、後の時代の人間の心や社会の発展にとって、計り知れないほど大きな分岐点となるものだった。