豊田 尚吾
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2008年08月21日 |
豊田 尚吾
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2010年5月18日新規登録 |
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先日、厚生労働省が公表した平成19年の日本人の平均寿命は、女性が23年連続世界1位の85・99歳、男性は世界3位の79・19歳。まさに長寿大国です。この平均値という指標は便利な数値で、直感的には大体真ん中だとか、多くの人が得られる値だと理解されています。
しかしこの“平均値”に違和感を持った経験はありませんか。例えば日本人が保有する金融資産の平均値は世帯あたり1259万円(図参照)です。とはいえ多くの家庭がそれほど多くの金融資産を持っているとは思えません。実際、平均以上の金融資産を保有しているのは全世帯の3割程度です。少数のお金持ちの資産額に引っ張られて平均値が上がっているのです。平均値に近づかねばと焦り、リスクの大きな投機に手を出して失敗するなどというのは、平均値の誤用による悲劇です。
散らばりの状態が富士山のような対称形であれば、平均値は多くの人が期待できる値という直感に近い数字を示しますが、図のように山がいびつであると直感とのずれが生じます。そういう場合には中央値(真ん中の人が位置する値)、あるいは最頻値(最も人数が多い値)を利用することが適切です。
平均値といった指標は、そのままだと分かりにくい複雑な事象を、1つの数値だけで簡潔に表現することを目的に作られています。逆にいえば、分かりやすさのためにその数値以外の情報は全部捨てているわけです。場合によってはその捨てた情報に大切なものが含まれていて、間違った判断をする危険性があることを理解しておくべきです。
これは平均値に限りません。オリンピックの金、銀、銅というのも分かりやすいけれど、それだけですべてを評価するのは乱暴すぎますね。よって単純化された情報を用いる場合には、常に他のものを捨てているという意識、捨てるべきでない情報を捨ててしまっているかもしれないという慎重な態度を保ち続けることで、誤った判断を犯すリスクを減らすことが可能になります。
分かりやすいことは便利であると同時に危険でもあるのです。
(大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾)