豊田 尚吾
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
---|---|---|---|---|---|
2008年09月18日 |
豊田 尚吾
|
住まい・生活 |
食生活 |
新聞・雑誌・書籍 |
2010年5月31日新規登録 |
ページ内にあります文章は抜粋版です。
全文をご覧いただくにはPDFをダウンロードしてください。
(産経新聞 夕刊(大阪)2008年9月18日掲載)
車など大きな買い物をしたときに、さして欲しくもない装備までついでにつけてしまったことはありませんか。何千万円もする家を買うとき、このサッシにすると5000円高くなりますなどといわれても、そんな細かい話と無造作に意思決定してしまったことはないでしょうか。
一方で同じ人がスーパーで10円、20円にこだわってもいます。家を買うときの10円も、スーパーでお菓子を買うときの10円も同じであることは言うまでもありません。
消費者はすべての商品の組み合わせを詳細に検討している時間も能力もありません。そのため、例えば収入の何万円は食費、何千円は教育費と心の中で複数の財布を作り、それぞれの財布に入っているお金の範囲内でやりくりをすることが知られています。これを心理的財布といいます。
主な買い物の金額に比べて安いモノのついで買いを誘う冒頭のような例は、予算に余裕のある“大きな心理的財布”を狙った販売側の作戦です。これに乗せられないようにする方法は、仮にもとの買い物がなくても、単独でそれを買う価値があるかと自分に問いかけ、心理的財布の呪縛(じゅばく)から逃れることです。
逆に心理的財布の性質をうまく利用することで生活経営力を高めることもできます。例えば毎月、給料の10%を“ないもの”としてまず貯金してしまうというのは、この心理的財布のよい使い方です。心の財布を実際の封筒で現実化する“袋わけ”家計管理法(食費用袋、光熱費用袋などにお金を分けて管理する方法)や、複数の銀行口座利用もこの応用です。
ただし、まあいいかといって別の財布に手を出すようでは意味がありません。例えばどうしても教育費が1000円不足する場合、教育費を管理している私が、食費を管理している私に1000円借金をしているという感覚を持ち、いつまでに返すとの約束を心の中でするぐらいでないと、自分の心をコントロールしたことになりません。
心の中でそのような交渉ができるなら、心理的財布を使いこなしているといえるでしょう。
(大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾)