豊田 尚吾
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2010年05月31日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
ディスカッションペーパー |
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1.はじめに〜責任ある消費の重要性〜
経済学においては、消費者は所得制約の下、自己の持つ効用関数を利用して算出する効用値を最大化するような財の組み合わせを意思決定することが仮定されている。その際、方法論的には個人主義を仮定し、他者への配慮は考察の対象外とする。
一方で、環境問題や貧困問題など、社会的な課題の重要性が大きくなるにつれ、生活者の、それらに対する関心も高まっている。伝統的な経済学の考え方では、そのような社会問題は利害関係が個人の中に止まることなく、広く社会全般に影響を及ぼすため、市場機能を用いての効率性は実現しない。また、そもそも分配に関わる問題(公正性)は、市場機能では解決できない。必然的に政府の介入による、市場の失敗の克服や分配の公正の実現をはかることとなる。
そのような中、企業の社会的責任(CSR)と同様に、消費者にも社会的責任が存在するとの考えが一部で広がっている。実際、カーボン・オフセット商品やフェアトレード商品、地産地消商品やチャリティ・バザー、ボランティア預金、各種寄付行為など、単純な個人主義の前提では理解しにくい消費財が存在する。これらは劇的に広がっているわけではないが、市場から完全に淘汰されることもなく、人によっては生活(ライフスタイル)の一部となっている場合もある。
これらを責任ある消費(Responsible Consume)、あるいは倫理的消費と呼ぶ場合がある。マーケティングでもソーシャル消費(上條2009)というものが注目されている。2009年6月14日に発表した、エネルギー・文化研究所のディスカッションペーパー(No.09-01)「責任ある消費者の意志決定に関するデータ分析」 では、このような消費に関して取り上げて、その意思決定構造に関して論じた。
本稿は、そこで得られた課題の一つへの取り組みをまとめたものである。No.09-01では、社会心理学の既存研究から3つの意思決定モデルを借用し、責任ある消費に関するデータに適応可能かどうかを検証した。そこで一定の妥当性を確認する一方、ではそこからどのような示唆が得られるのか、とくに政策的なインプリケーションは何なのかということに取り組むためには実用的なモデルとは言い難かった。
そこで本稿では、No.09-01で用いた複数のモデル内容を検討し、自身の持つ問題意識に取り組むことができるような新たなモデルを構築することを目的とする。
まず、No.09-01のポイントを確認する。そこでは責任ある消費行動に関する、意思決定モデルを3種類援用し、9つの財・サービスに関するデータを利用して、共分散構造分析を行い、モデルの妥当性を検証した。
これら複数のモデルでは、重なる要素も多いため、それらを整理しながら、何が自身の問題意識にとって重要なのかを明らかにする。結果、既存のモデルを統合して、自身の問題意識に沿った新モデルを構築し、その妥当性を検証することが本稿の内容となる。