豊田 尚吾
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2008年10月02日 |
豊田 尚吾
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(産経新聞 夕刊(大阪)2008年10月2日掲載)
米国発金融不安だ、世界同時不況だと世間は騒いでいますが、こんなときこそ生活者は長い目で物事を見る目を養うことが必要です。
長期的視点で物事を判断する場合、時間割引率(または時間選好率。以下割引率)という考えが重要になります。例えば今1万円手に入るのと、1年後に1万円手に入るのではどちらが良いかと尋ねると、多くの人は今の1万円の方を選びます。もしある人にとって今の1万円と1年後の1万500円が同じ価値を持つ場合、10500÷10000=1・05(105%)で、5%が妥当な割引率だと考えます。
実際、今1万円を貯金すると1年後には利息がつくわけですから、1年待つならその分余計に欲しいという思いは理解できます。市場利子率が即、割引率ではありませんが、割引率に対して一つの根拠を与えています。
この割引率は結果として将来より現在を重視する働きがあるともいえます。例えばある開発事業で今1万円投資をすれば、1年後に1万円の成果が期待できるとします。成果が出るのは1年後なので割引率で割り引かれ、現在の価値で言うと1万円以下になってしまいます(割引率5%なら9524円。表(2))。その結果、それは採算に合わない投資だと評価されてしまうのです。
割引率は複利で累積的に影響します。従って次の世紀のことまで考えるような環境問題では、割引率を2%と小さくとったとしても、平準な気候など100年後の環境の価値は、現在の同じものと比べて14%程度にしか評価されません(表(2))。その結果、遠い将来に成果が期待できるような取り組みを今から始めることは難しくなります。それは現代人のエゴではないか、環境のような課題に関しては、割引率を0%にして、現在と将来の価値を同等に扱うべきだ、と主張する人もいます。
割引率は長期的視点が必要な生活設計には不可欠の要素です。時間の流れの中で人が価値をどう評価するのかにかかわるという意味で奥深く、多くの学ぶべき要素を含んだ考え方なのです。
(大阪ガス エネルギー・文化研究所主席研究員 豊田尚吾)