-はじめに-
　マリ共和国（以下、マリ）では、23の民族が住み、ことばも文化的背景も異なるが、住居の形態が家族のあり方や特徴を物語っている。どの民族の住居でも、家長・男性・女性・子どもといった家族構成員ごとの居場所、家畜小屋や菜園の場所など、空間が役割ごとに分かれている。ここでは、マリの空間的特徴と家族のあり方について考察したい。

-マリの概要-
　マリは、1960年9月22日にフランスから独立を果たした西アフリカの内陸国で、国土総面積は約124万1,238km2、北部はサハラ砂漠の一部となっている。首都はマリ西南部の山に囲まれた平原にあるバマコである。人口は約１,４５２万人（２００９年）で、マンデ系 (バンバラ族、マリンケ族、ソニンケ族)、プル族（フラニ族）、ボルタ族、ソンガイ族、トゥアレグ族、ムーア族、ドゴン族など23以上の民族で構成される。公用語はフランス語であるが、バンバラ語、フルフルデ語、ソンガイ語、タマシェク語等の言語が日常的に使われている。宗教はイスラム教が90%、伝統的宗教が9%、キリスト教が１％とされている。気候は大きく乾季（11月〜5月）と、雨季（6月〜10月）の２つに分かれる。

-マリの住居の概要と家族の形態-
　マリでは、民族によって住居（以下、画地）の構成や部屋の配置に差が見られるものの、画地を構成する部屋の形態は類似しているものが多い。マリの住居形態を（1）農村部（2）伝統的都市部に分けて概要を述べたい。

農村部の画地の概要
　農村の画地の空間は、拡大家族（100人以上の場合もある）が必要とする「寝る所」「調理する所」「穀物を保管する所」「家畜を夜間に入れておく所」「食べる所」「団らんする所」「工芸品等の加工作業を行う所」などが中庭を中心に構成されている。
　バンバラ族の家屋（以下、部屋）には、円形タイプと方形タイプと２つの型があるが、その構造は同じである。屋根は円錐状に、あるいは角錐状に組んだ木の上に、サバンナに生えている禾本科の草を葺く。壁は、日干煉瓦を積み上げ、それを土やウシの糞で塗り固める。窓は少ないかまたは無く、出入口は１つだけ作り、木製の開き戸を付け、鍵をおろす。部屋の大きさは円形・方形のいずれも１室だけで、15m2〜20m2である。こうした部屋が、中庭を囲んで10棟前後集まり、バンバラ族の画地が形成される。中庭には井戸が掘られ、大きな木が植えられており、家庭菜園があり、構成員の部屋以外に、台所や水浴びもできる便所がある。画地の入口は1つで、その付近には最低でも１棟の接待用の部屋が設けられている。入口から見た部屋の配置によって、そこで寝る居住者の身分が表わされる。中庭の奥には主人部屋があり、その周りに妻たちの部屋、息子たちの部屋、主人の兄弟家族の部屋が並んでいる。
　ドゴン族の画地は、前述のバンバラ族の画地とは構造的に、また、材料的に類似している部分は多いが、部屋の配置に対する考え方が異なっている。ドゴン族の画地の部屋の配置には、「人間」が右横に寝ている姿が表現されており、全体が卵の形になっているといわれている。その「卵型住宅」の、頭の部分には工作場、足の部分にはお祈り（礼拝）の場、手の部分には女性たちの部屋、胸の部分には家族の場が配置される。