宮坂 靖子
2010年07月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
媒体(Vol.) |
備考 |
---|---|---|---|---|---|
2010年07月01日 |
宮坂 靖子 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.93) |
ページ内にあります文章は抜粋版です。
全文をご覧いただくにはPDFをダウンロードしてください。
日本と中国の「家族」のあまりに多くの違いに、何度カルチャー・ショックを感じたかわからない。中国の家族には、柔軟で変化自在な親族ネットワークという言葉がぴったりであるが、それが子ども(きょうだい)間の平等という意識に支えられ、特定の子どもに負担をかけないという家族や親族のあり方を可能にしている(※1)。
筆者は2007〜09年の3年間、中国東北部にある遼寧省大連市に住む高齢者を対象としたインタビュー調査を主に行ってきたが(※2)、日本と中国の間の一番大きな違いを感じたのは、高齢の親との同居や介護についての意識であった。
「どの子と同居したいか、どの子に介護をして欲しいか」という質問に、「(性別にかかわらず)子どもたち全員」と回答する人が多かったのだ。共同研究者の李東輝(大連外国語大学)が、09年4〜5月に65歳以上の高齢者100名を対象に行った質問紙調査によれば、「親の世話は子どもが平等に分担すべき」という問いに「そう思う」「ややそう思う」と回答した人は92.4%、それに対して、「親の世話は長男が責任を持つべき」に「そう思わない」「あまりそう思わない」と回答した人は74.3%にのぼった。
調査を進める中で、この意識が「財産相続」の意識とセットとなっていることがわかってきた。前述の李東輝の調査によれば、高齢者の過半数は「全きょうだい(すべての子ども)の均分相続」を希望している。「男きょうだい(息子間)の均分相続」は5%弱しかいない。
周さん(83歳、女性)は既に夫を亡くし大連市内にひとりで暮らしているが、「独居老人」のイメージとはかけ離れている。周さんには6人の子ども(娘3人、息子3人)がいるが、4人が大連市内に住んでいて、どの子どもも毎週1回から数回、母である周さんを訪ねている。筆者らが訪問した時、ちょうど末子の三男が家にやって来た。彼は私たちに簡単な挨拶をすますと、慣れた手つきで床の拭き掃除を始めた(三男は以前母親と同居していた)。
(※1)落合恵美子・上野加代子『21世紀アジア家族』明石書店(2006年)、落合恵美子・山根真理・宮坂靖子編『アジアの家族とジェンダー』勁草書房(2007年)
(※2)山根真理を代表とする文部科学省科学研究費補助金による研究プロジェクト「20世紀アジアの社会変動と高齢者のライフコース」の研究分担者として調査を実施した。