豊田 尚吾
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2010年11月16日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
ライフスタイル |
ディスカッションペーパー |
10-08 |
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はじめに−問題意識
大阪ガスエネルギー・文化研究所(CEL)は持続可能な社会の構築に資する活動を組織のミッションとしている。次世代に持続可能な社会を引き継ぐことは私たちの責任である。しかしながら、現在、「社会の持続可能性に対する不安」が意識され、場合によってはそれが原因となって、生活者の積極的な活動を抑制している面があるのではないか。そのような問題意識のもと、本稿ではその不安に着目し、経済面から見た、不安の払拭に関して論じていく。
そのためにはまず、日本経済の現状に関する認識の共有化が必要である 。短期的な「景気」という視点では、30兆円とも言われるデフレギャップによる経済停滞が指摘されている。それは一般物価の下落としてのデフレ、さらにデフレスパイラルという悪循環を招いている。
処方箋としては、一般に金融政策が重視されている。それによってインフレ期待が醸成できれば、今般の問題も緩和されるであろう。円安シフトを通じた外需拡大などの刺激が効果を持つかもしれない。
しかし、問題は、たとえ金融緩和、あるいは限られた中での財政政策などにより、デフレギャップが解消の方向に向かったとして、それが持続可能な成長につながるかどうかということである。
その「成長」のためには、デフレギャップが解消した上で、生産要素 が適切に蓄積され、技術革新などによる全要素生産性の向上が実現しなければならない。それに見合った投資や消費の実現のためには、日本経済の成長に対する、適度な期待が必要だ。
しかし、現在、日本経済に対する期待成長率は減退している。それは従来型の経済政策では回復しないのではないか。もしそうであるならば、政策によるインフレ期待は一時的でいずれまた低下し、経済停滞に逆戻りすることになる 。これが、本稿の主要な問題意識だ。
そのように懸念する理由は、期待成長率低下の原因が、社会基盤の持続可能性に対する「不安」ではないかと考えるからである。
具体的にいくつか例を挙げると、日本社会の高齢化および人口減少は、人口オーナスとして、社会保障に負担をかけ、制度の維持可能性を危うくしている 。それは私たちの後期ライフステージに対する不安につながっている。
グローバル経済化においては、新興国の台頭に伴う、国内の賃金コストに対する低下圧力が、中高年者のリストラや若年者の採用減少などを招く。雇用不安は貧困への潜在的不安につながる。
環境問題は社会基盤の維持そのものに対する不安である。ICT の進展は、地域コミュニティ内でのコミュニケーション希薄化から、互酬関係の衰退不安を招く、という一面を持つ。公的債務は累増し、問題を解決するための“原資”が不足しているという不安もある。
現実的には杞憂なのかもしれないが、明日はどうなるか分からないという不安が、消費者には節約、企業には安全志向の経営を迫る 。結果的に、経済全体が消極的になり、需要減退という悪循環に陥る。
これらの問題が構造的に解消されない限り、期待成長率は高まらず、基調としての需要抑制圧力が成長に対する足かせになると考える。民間研究機関の長期経済予測を見ても、1%程度の経済成長と低インフレ率を見込んでいる場合が多い 。これは“期待成長率を高め、自己実現するパワーを展望できない”ということではないだろうか。
以上の考えを前提とし、今述べたような「不安」の解消の実現に関して処方箋を提案することを本稿の目的と位置づける。