上甫木 昭春
2011年01月11日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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媒体(Vol.) |
備考 |
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2011年01月11日 |
上甫木 昭春 |
エネルギー・環境 |
地域環境 |
情報誌CEL (Vol.95) |
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木々のない砂漠で、人間は生活することができるだろうか。無機質の石や砂とは異なる有機的な人間が、社会性を持って生きていくための条件を確保することは難しそうに思える。現代の都市は、人工的な建物が乱立し、孤立して生活する人が増えた様相から、都市砂漠ともいわれる。都市において木々と共生する意味は、まさに生身の人間が社会性を持って生きていくための健康な場づくりにあると思う。
−インフラ(都市基盤)としての緑−
まず、人々が暮らす都市そのものが健全であることが求められ、そのためには人工的な環境とバランスを持った緑のインフラが必要である。
−森は生活基盤を生み出す−
森の存在は、生活資材や水やエネルギーなど生活するための基盤を提供し、各地に小さな集落から巨大な文明を誕生させた。日本の伝統的な集落は、河口から川を遡った人々により水と肥沃な土地のある地につくられた。集落の周りには豊かな森が拡がり、水源の涵養、日常の燃料や田畑への肥料源として利用されていた。江戸時代の田畑と平地林が混在する地域では、その構成面積は同程度であり、持続的な関わり合いが形成されていた。このように、森の存在は生活環境の基盤として必須の要素であった。世界の四大文明が森の消失とともに滅んでいったのも、森と都市の中で循環的なシステムがなくなったことによるともいえる。
−精神基盤の付加−
日本では、かつて山や岩や木といった自然物に精霊が宿るといった原始宗教が誕生し、森そのものが信仰の対象であったという。本土の神社では、仏教の伝来などがきっかけとなり、鎮守の森の中に社がつくられ、鏡と武器で象徴される神が具現化されるようになった。
しかし、沖縄に行くとウタキ(御嶽)に森そのものを信仰する原型を見ることができる。たとえば、西表島の集落に入ると、ウタキとして保全されている森や林が至る所にあるのに気づく。防風林、水源の涵養林としての機能も併存していると思われる森もある。このように、精神的な基盤が付加され、生活基盤としての森の継承がより強固になっていると思われる。