中静 透
2011年01月11日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2011年01月11日 |
中静 透 |
エネルギー・環境 |
地域環境 |
情報誌CEL (Vol.95) |
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−原生林の世代交代−
「太古から変わらぬ原生林」というが、実際には森林は変化し続けている。たとえば、約2万年前、最終氷期のまっただなか、日本列島の気温は今より約6℃も低かったといわれ、その後の温暖化によって、約6千年前には逆に現在より1〜2℃気温の高い時代があった。そこから少し気温が下がって現在の気温にほぼ落ち着くのが3〜4千年前といわれている。つまり、現在私たちが見ている原生林は、3〜4千年前からそこにあったということになる。とすると、縄文時代の初めのころ、約5〜6千年前の人たちは、現在とは異なる森林とともに生きていたわけだ。
一方で、個々の樹木は4千年も生きることができないのが普通である。屋久杉のように千年以上も生きることのできる樹木はむしろ少数派で、たとえば冷温帯の代表的な原生林を作るブナなどは、最大でも400年くらいしか生きられず、多くは200年くらいで枯れていく。そうすると、4千年同じ森林が続くためには、少なくとも10〜20世代は世代交代が続いてきたことになる。1世代約30年の私たち人間にとっては、4千年というのは永遠にも感じられるが、樹木にとっては10〜20世代で、徳川家の将軍が15代続いたというのと同じくらいのレベルなのかもしれない。
ブナ林を例に世代交代の起こるようすを見てみよう。順調に世代交代が起こっているとすれば、大きな樹木の下には次の世代を担う樹木がつぎつぎに育っている状況を想像するが、実際にはそうではない。大きなブナの木の下には、すぐに後継ぎになれるような樹木がほとんどなく、小さな芽生え(実生)しかない。大木の下は暗いため、耐陰性(暗い所でも生存できる性質)が高いといわれるブナでも、発芽後数年しか生きることができず、ましてや大きく育つことはできない。発芽して10年を経ても、高さわずか20cmなどという状態で、実生の状態を脱することができないのだ。ブナの種子は数年に一度大量に結実するが、その他の年にはほとんど、あるいはわずかしか結実しない。種子が大量に稔った翌年には、多数の実生が発芽するが、年を追うごとに枯れたり食べられたりして数が減ってゆく。それでも、すべてがなくなる前に次の大豊作がやってくる。こうして、大木の下には常にある程度の数の実生がストックされている。この状態を「実生バンク」という。このような状態で、上にある大木が倒れると、林の天井(林冠)に穴(ギャップ)があいたように光が地表まで届くようになる。それを待っていたように実生が成長を始め、稚樹、若木と育ってついには林冠に達する。したがって、実際の森林には、このような世代交代のいろいろな段階がモザイク状に見られるのだ。