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情報誌CEL

塩見 直紀

2011年09月30日

本の万華鏡『「土のある暮らしと文化」を紐解くヒント』

作成年月日

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媒体(Vol.)

備考

2011年09月30日

塩見 直紀

エネルギー・環境

地域環境

情報誌CEL (Vol.97)

ページ内にあります文章は抜粋版です。
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 4キロの砂浜を美術館に見たて、Tシャツアート展や漂流物展を開催したり、ユニークな取り組みをしている高知県黒潮町の「砂浜美術館」。町中をいくら探しても美術館の建物は見当たらない。「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です」。これが砂浜美術館のコンセプトだ。
 砂浜美術館では、こんなものも作品ですという。「美しい松原」、沖に見える「クジラ」、卵を産みにくる「ウミガメ」、砂浜を裸足で走る「子どもたち」、流れ着く「漂流物」、波と風がデザインする「模様」、砂浜に残った「小鳥の足跡」などなど。「砂浜から見えるものすべてが作品になっていく。作品でないものは、ない。一瞬一瞬も作品。それは永遠と続いていく…」とパンフレットにある。数年前、夕陽が沈む時刻、僕も家族と砂浜を歩いてみた。砂浜を歩く僕たちもひとつの作品になったのかもしれない。
 米国の科学者レイチェル・カーソンは50年ほど前、「センス・オブ・ワンダー(自然の神秘さや不思議さに目を見張る感性)」の大事さをエッセイに遺した。僕はいまの時代、これがもっとも重要なことではないかと思っている。砂浜美術館のパンフレットには小さな小さな文字でこう記してあった。「時代を少し動かせるのは、一人一人の小さな感性の集り」と。
 10年以上かけ、1万種類の土をコレクションしている造形作家・栗田宏一さんは「土は美しい。それを伝えたい」という。全国の土を集め、乾かし、ふるいにかけてきた。すると、様々な土の色が姿を表すという。土色というものは、ほんとうはないそうで、ピンクやオレンジ色、ブルーや灰色があったりする。そういえば、僕が住む村の近くにもびっくりするくらい赤い土がある。
 新潟で3年に1度開催されるアートトリエンナーレ「大地の芸術祭」で栗田さんの作品に初めて触れた。新潟全域で採取した750種類の土が古民家に展示され、魅了された。作品のコンセプトは「土そのものの美しさを見てもらう。それぞれの土は私たちの在り方を見つめ直すものとなる」。栗田さんの仕事に鼓舞され、以来、僕は旅先でも、また、故郷を歩いていても、土の色が気になるようになってしまった。娘が小学校の夏休み、自由研究に市内の土の色コレクションをおこなった。やってみると簡単に20色の土が集まり、僕も子どもも驚いた。土のある暮らしと文化を紐解く。そのためにはセンス・オブ・ワンダーが必要だと思う。

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