山下 満智子
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2012年02月14日 |
山下 満智子
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住まい・生活 |
食生活 |
情報誌CEL (Vol.99) |
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-はじめに-
従来、火や調理が重要なことは、改めて言う必要もないことと認識されてきた。しかしライフスタイルの変化の中で、火離れ、調理離れが急激に進んでいる。
平成17年に食育基本法が成立し、子どもだけでなく大人を含めた食育の重要性を多くの国民が認識するようになり、食生活の乱れや食環境の変化による健康不安、日本の食文化への危機感等とともに、家庭での調理離れの状況について、しばしば取り上げられ問題視されるようになった。一方、火は調理以上に遠い存在になっている。特に子どもたちが、生の火を見たり、扱ったりする機会は極端に減っている。子どもたちが、火から遠ざけられていると言っても過言ではない。火を知らないままに育つ子どもが増えているのだ。
私たち日本人は、ヒト(人類)固有のものである火や調理という生活文化の重要性を再認識する必要があるのではないだろうか。
-火離れと炊飯器-
「子どもたちが、火が熱いということも知らない」という話を聞き、それを確認しようと2007年10月に京都のNPO子どもサポートプロジェクトと共同で、「七輪で秋刀魚を焼いて食べよう」というイベントを行った。
そのイベントを通じて、子どもたちが本当に火について知らないということを目の当たりにすることになった。マッチを持って「シュ、シュ」と口では言いながらも、なかなか火をつけることができないのである。しかし2本、3本とマッチを折るうちにどの子もマッチの擦り方を習得できる。すると顔がパッと明るくなり自信が顔に出る。マッチを擦って七輪で火をおこす体験が子どもに自信を与えたようであった。
火を知らないのは、子どもばかりではなかった。東日本大震災後の節電のため「ガスでご飯が炊けるか」、「鍋でどうしたらおいしいご飯が炊けるか」という問い合わせを数多くいただいた。もちろん炊ける。火と鍋があればほとんどの鍋でおいしいご飯が炊ける。
かまどでご飯を炊き、七輪で味噌汁を作り、魚を焼く。長火鉢には、鉄瓶がかけられ金火箸が添えられ、食事の時には、味噌汁の鍋が置かれた。かまどの炊き残りをかきだす鉄製の火かき棒、かまどの炊き落としを長火鉢や炬燵に移すときには、十能が使われた。炊飯器が普及するまでの普通の暮らしだ。
昭和30年に東芝製の電気自動炊飯器、昭和33年にガス自動炊飯器が発売されて半世紀たった。かまどが炊飯器に、七輪がガスコンロやグリルに、長火鉢が電気ポットやオーブントースターに交代して、火はいつの間にか台所でさえ見えないもの、遠いものになってしまった。