栗本 智代
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2012年02月14日 |
栗本 智代
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都市・コミュニティ |
地域活性化 |
情報誌CEL (Vol.99) |
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-大阪の現状から-
関西には豊饒な歴史や文化があり、各地域でまったく個性が異なるのが特徴である。京都は、はんなりとした上品なイメージで、神社仏閣、まちなみ、食べ物など、歴史がそのまま今に伝えられおり、住民はわがまちに誇りを持つ。京都に本社を置く企業はそのブランド力を支えにし、国内外の観光客にも大変評判がいい。神戸は、ハイカラな港町としてシャレたイメージで、風見鶏に象徴されるような異人館やパン屋をはじめ、山の手の高級な文化が根付き、特に“阪神間”と呼ばれるエリアに住む、あるいは通学することに憧れる人も少なくない。
一方、大阪である。ビジネスや買い物に非常に便利なまちだが、文化的な側面でのイメージは、コテコテ、お笑い、コナモン、阪神タイガースなど偏りがあり、さらに、駐車違反やひったくりが多い怖いまちなど、良くないイメージが誇張されている。大阪人自身が自虐的な表現をすることで、ウケを狙う傾向があるのもその一因なのかもしれない。
実際、ビジネス客や観光客は、大阪城、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン、道頓堀、新世界などのお決まりのポイントを訪ねると(あるいは訪ねずに)京都や神戸へ半日観光に出向いてしまう傾向が強い。旅行会社も、従来からの偏ったイメージを助長するような広告やツアープログラムを提供しているのが現実である。
タコヤキやお好み焼き、吉本新喜劇、グリコのネオン街はひとつの大阪の特徴であり、確かに人をひきつけるパワーがある。しかし実際に大阪には、それ以上に、難波宮からはじまる長い歴史や、時代に伴い育まれた多彩な文化がある。お笑いという括りであれば、上方落語も松竹新喜劇(人情喜劇)というジャンルもあり、食文化では、昆布・だし文化に、他都市に勝るものがある。今なお残る伝統的な町家や近代建築、さらに新たに芽生えつつあるまちづくり活動やアート、サブカルチャーなど、多種多様な側面があり、ひと言ふた言では表現できない深い魅力をたたえている。にもかかわらず、周知されていない。
都市の力を考える時、木津川計氏は「経済の視座」と「文化の視座」があるという。それらの視座から改めて振り返ると、大阪の場合、商人のまちであったことも手伝い、都市の力を何よりも経済的な観点から捉える傾向にあった。まずもって、経済的基盤がなければ、文化も成立しない。住民が今日明日の暮らしを営むためには当然の考え方である。しかし、あまりに目先の利益を追い求めるため、長期的に文化を守り育成する思考が欠落していったのは確かである。例えば、家屋の焼け屑を、歴史的にも有名な川に埋めて堀をなくしてしまったり、まちの歴史が表現された町の名前を合理的な名称に変えてしまったりと、まちの記憶を根こそぎ絶やす作業があちこちで行われてきた。文化を軽視した結果、まちの魅力が減少していったことが、経済力にも影響を与えたのだろう、現在は、大企業の本社が、東京をはじめとする他都市に流出し、府民所得や工業生産高も下降しつつある。