豊田 尚吾
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2012年02月14日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
消費生活 |
情報誌CEL (Vol.99) |
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-はじめに-
本稿では、生活者の持続可能な善き生き方(ウェルビーイング)を実現するためには「生活経営」が必要だと主張する。生活者にとって、社会の様々な事象が対応すべき課題として目の前に現れている。それらに対処し、個人としての生活満足感と社会への貢献を両立することの重要性を説きつつ、そのために必要な考え方を整理することに取り組む。
そのために、次節では、まず「生活経営」とは何なのか、なぜ重要であるのかについて述べる。それによって「生活を経営するという視点を持つ」ことが必要だというメッセージを提示する。
次に「生活経営の領域を拡張する」ことが、現在の社会状況に対応するために求められていると主張する。具体的にいえば私的、公的、理念という3方向に生活経営の射程を広げていくことを提案する。
最後にそのような「生活経営」に重要なキーワードとして、リテラシーとコミットメントという、2つのキーワードを示し、その必要性を主張する。そして、その結果、どのような社会が期待できるのかを展望することが本稿の目的となる。
※今回のテーマとなっている、CELシンポジウムにおいては、生活経営の実践として、倫理的消費を紹介した。しかし、倫理的消費に関しては季刊誌「CEL」98号にて特集を組んでいるので、ここではその部分を変更している。
-生活を経営するという視点を持つ-
(1)生活経営とは何か
生活を暮らしと考えると、滞りなく暮らしていくにはお金の管理が不可欠である。それを企業の資金管理活動と重ね合わせてみることで、生活を経営するという意味の一端はイメージできるはずだ。しかし、ここで論じようとしている生活経営は、それを含んでいるものの、それだけではない。
例えば、2009年末に発売され、一昨年、昨年のヒット商品となった『もしドラ(もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら)』(岩崎夏海著、ダイヤモンド社)の舞台である野球部。これも登場する高校生にとっては生活の場そのものであり、野球部の運営を管理(マネジメント)することで、よりよい成果を得る。これも立派な生活経営である。
そういう意味では、生活経営という言葉があったかどうかは別として、生活の効果的運営自体は特に新しい考え方ではない。ではここで何がいいたいのかというと、生活を「世帯という組織の運営」と考え、それを「経営管理」という面を強調して考察しようということである。そこでまず生活経営を「生活(人が世の中で暮らしていくこと)×経営(事業目的を達成するために、継続的・計画的に意思決定を行って実行に移し、事業を遂行すること)×管理(ある規準などから外れないよう、全体を統制すること)」と考える。そして、本稿ではその中でも生活における「世の中」、経営の中にある「事業」「目的」「意思決定」、管理の中の「規律」、すなわちルールや「統制」という言葉を重視する。それらを掛け合わせたものとして、ここでは他の生活経営(論)とは異なる、カギカッコつきの「生活経営」と定義する。