つばた英子、つばたしゅういち
2012年07月10日作成年月日 |
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2012年07月10日 |
つばた英子、つばたしゅういち |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.101) |
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自然の力を借りて豊かな暮らしをつくり上げる
畑では季節の野菜が元気に育ち、鈴なりの果実が甘い香りをふりまいている。雑木林をわたる風は清々しく、木陰に入ればひんやりとした空気が心地いい。
自然に包まれたここは、愛知県春日井市、高蔵寺ニュータウンにあるつばた英子さん・しゅういちさんの住まい。日本住宅公団(現 都市再生機構)の設計者であったしゅういちさんが手がけた街で、300坪の土地に自ら設計した丸太小屋を建て、200坪のキッチンガーデン(※1)と30坪の雑木林をつくり、半自給自足の生活を送っている。
その手本となったのは、しゅういちさんが50代半ばにドイツで視察した「クラインガルテン」(※2)。市民が広大な農園で野菜を育て、庭をつくり、緑の中で豊かに暮らすその生き方に感銘を受け、「自分の家で実践すること」が人生の目標になった。英子さんも以前から「安全な食べものを自分でつくりたい」という夢があり、そんな二人の理想を形にしたのが今の暮らしだ。
夏は日の出とともに起き、涼しい早朝に畑仕事を行う。手作業による無農薬・無消毒の菜園づくりは、気候と相談しながら種を蒔く時期を調整し、土壌はほぼ休耕なしの連続利用で多品種の野菜を栽培。四季を通して安心・安全な旬の食材が収穫できるつばた家では、「野菜や果物は太陽の光にあたったものしか食べない」と決めている。
自家製の食材を、得意の手料理で無駄なく使いこなすのは英子さんの役目。だが丸太小屋はもともと、英子さんと娘の機織りのアトリエとして建てたもので、キッチンは狭くて設備も簡素である。湯沸かし器はなく、換気扇はしゅういちさんが後から取り付けた小さな扇風機で代用。電子レンジも設置しておらず、料理の再加熱や冷凍食材の解凍には土鍋を使用している。最低限の設備をやりくりしながら日々の仕事に手間と時間をかけるのは、菜園づくりも料理も同じだ。
さらにつばた家では、雑木林の存在も大切である。35年前、1本1本手植えした180本もの落葉広葉樹の幼木は、時を経て、丸太小屋を包み込む森のような雑木林へと成長。夏は日差しを遮る緑のカーテンとなり、落葉した冬は暖かい西日を届けてくれる。
その自然の恩恵を受けた室内では、季節に合わせて建具やファブリックを模様替えし、エアコンに頼らずとも快適に過ごす工夫が随所に見られる。自然とうまく付き合うことが夫妻にとっての豊かな暮らしであり、それが省エネルギーにもつながっている。
落ち葉はかき集めてストックし、生ゴミと混ぜて堆肥をつくる。畑の水やりには水道水は一切使わず、溜めた雨水を利用。廃棄物を減らし、自然界にある資源を有効活用する工夫も長年の生活の知恵から生まれた。
利便性を追わずに自らの手を動かし、自然に寄り添いながら丁寧に生きてきた積み重ねの日々があるからこそ、キッチンガーデンも雑木林も見事に成熟し、80歳を超えても健康で自立した生活を持続。そんな夫妻の暮らしぶりは、物もエネルギーも消費が当たり前の現代生活に一石を投じてくれる。
(※1)台所で使う野菜と、花・ハーブ・ベリー類を混植した庭
(※2)1区画平均300m2の農地を25年以上の長期契約で貸し出すドイツの市民農園