豊田 尚吾
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備考 |
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2014年10月08日 |
豊田 尚吾
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住まい・生活 |
ライフスタイル |
デザイン・ユア・ライフ |
二つの質問
はじめにこの連載企画の本質的な事項につながる二つの質問をします。一つ目は次の(A)、(B)のどちらを選び(好み)ますかという質問です。
(A)あなたと家族で暮らす家に関して。敷地面積60坪の一戸建て。ただしご近所は皆100坪の一戸建てに暮らしています。
(B)あなたと家族で暮らす家に関して。敷地面積40坪の一戸建て。ただしご近所は皆30坪の一戸建てに暮らしています。
※家の大きさ以外の条件(環境)は、(A)(B)で全く同じです。
二つ目も次の(C)、(D)のどちらを選び(好み)ますかという質問です。
(C)毎年4週間の休みがもらえる会社に勤める。ただし、同僚は毎年6週間の休みをもらうことができます。
(D)毎年2週間の休みがもらえる会社に勤める。ただし、同僚は毎年1週間の休みをもらうことができます。
※休み以外の条件(環境)は、(C)(D)で全く同じです。
さて、どうでしょうか。色々な答えがあり得ると思いますが、(B)と(C)の組み合わせを選ぶ人が多いということをコーネル大学教授のRobert H. Frankが実証しています。すぐに分かるように、2つの質問はいずれも自分自身に関わる財・サービスの水準とともに、自分の近くにいる他者が得る(得ている)財・サービスの水準が並べて述べられています。
そして、どちらも前者の選択肢(A)、(C)の方が後者の選択肢(B)、(D)よりも自分自身が得ることのできる財・サービスの水準は高くなっています。しかし同時に前者の選択肢は自分の近くにいる他者と比較すると享受可能な財・サービスの水準は劣っています。逆に(B)、(D)は他者よりも勝っている。そのような構造になっています。
位置財と非位置財
ではなぜ住む家に関しては、絶対的な広さは小さくても周りよりも相対的に広い(B)を選択する人が多いのでしょうか? またなぜ休みに関しては、人より相対的に少なくても絶対的な日数の多い(C)を選択する人が多いのでしょうか? Frank教授は、他者との比較が良し悪しの判断に大きく影響する財・サービスと、他者がどうであれ自分自身の享受する水準が良し悪しの判断に大きな影響を持つ財・サービスがあると考えました。前者をpositional good(位置財、あるいは地位財)、後者をnonpositional good(非位置財、あるいは非地位財)とし(名付け親は別にいるようですが)、家は位置財、余暇(レジャー)は非位置財の典型であるとしています。
日常生活で考えると分かりやすいかもしれません。人の目を気にするような財・サービスは位置財と言えるでしょう。洋服、アクセサリー、・・・。先日も内閣改造で当選回数が多い代議士で大臣になっていない人の不満がたまりつつあるというような話を耳にしましたけれども、地位、ポジションなどは文字通り位置財(地位財)といえるのでしょう。
その一方で休日に関しては他人がどれだけ休んでも自分にはあまり関係がない。多少うらやましいかもしれませんが、それよりも自分がどれだけ休めるかの方が何倍も大事でしょう。
ただ、100人いれば100人ともが(B)、(C)を選ぶわけではありません。(A)や(D)を好む人もいるでしょう。車を買う場合にも、人との比較が気になる人と、自分の好きな車かどうかが大事で他人が何に乗っているかなんて気にならないという人がいます。その意味で位置財と非位置財という概念(考え方)は存在しますが、具体的に何が位置財で何が非位置財かは人による、ということになります。
ウェルビーイング論に関する、新しい潮流
財・サービスとウェルビーイングとの関係を研究するといえば経済学がすぐに頭に浮かぶと思います。しかし、よく言われていることですが、経済学は“学問”としての曖昧さや複雑さを少なくするために、ウェルビーイングに相当する「効用(utility)」を定義する際、他者との比較という要素を(基本的には)考えずに理論をつくることにしました。それは一つの考え方として妥当だったと思います。しかし、ある分野のウェルビーイングを考える場合には比較という要素が重要になることも事実です。そしてそこに光をあてて考えようという動きが(紹介したRobert H. Frankをはじめ)でてきています。
この話はまだ続きますが、今回はRobert H. Frankのまとめを最後に紹介して一旦終わりとしたいと思います。
○人びとはある財の消費について相対的な関係(他者との比較)を重視します
○これは位置財に関する消費競争を誘発します
○その競争は本来重要である非位置財から目をそらし、大きな厚生(≒ウェルビーイング)の損失を招きます
○厚生の損失は拡大しつつある所得格差によって悪化しつつあります(※これに関しては追加の説明が必要な主張です)