木全 吉彦
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2014年11月01日 |
木全 吉彦
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住まい・生活 |
食生活 |
情報誌CEL (Vol.108) |
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手元に『炎と食―日本人の食生活と火』(大阪ガス(株)エネルギー・文化研究所 炎と食研究会編)という冊子があります。1990年から毎年開催している「炎と食シンポジウム」の第10回を記念して2000年にまとめたものですが、そのなかで、熊倉功夫・国立民族学博物館教授(当時。現・静岡文化芸術大学学長)は「日本の近代の食を考えた時、これほど大きな変化を見せた民族は他にない。それは10年前と比べても随分違ってきているし、今もどんどん変化している」と述べておられます(「近代化と日本の食文化」)。
それから14年。日本の食の風景はさらに大きく変わりました。
グルメ情報サイトなどネットを通じた食情報は巷にあふれ、進化し続ける食品加工技術や宅配サービスによって、従来に増して多種多様な食材や料理を手軽に楽しめるようになりました。豊かな食文化はまちの魅力の源泉、さらには観光資源にもなって世界中の人々を惹きつけています。
その一方で、コンビニ弁当やおにぎり、外食チェーンの丼やカレー、大手流通のプライベートブランド惣菜などが普及し、味覚の均一化、栄養バランスの偏り、伝統的家庭食の崩壊など気になる兆しも見えてきました。
家族や共同体での共食をベースとした食の風景は、家族や社会の変容に対応して、徐々に形を変え、そと食べ(外食)、持ち帰り食べ(中食)、それぞれ食べ(個食)、ひとり食べ(孤食)へと分化・多様化しています。いつ、どこで、誰と、何を食べるのか、そしてその目的も、命をつなぐために必要な栄養摂取というベースラインから、公・私、硬・軟のコミュニケーションなどの生活実用の域を超え、「愉しみ」や「学び」の世界へと大きく拡がっているようです。
生活者のニーズを反映し、また潜在ニーズを先取りして奔放に変化し続ける「食」はこれからどこへ向かうのか。「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されて間もなく1年、日々の暮らしにおける中核的な営みである私たちの「食」について考える好機だと思います。