元吉 忠寛
2014年11月01日作成年月日 |
執筆者名 |
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2014年11月01日 |
元吉 忠寛 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.108) |
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東日本大震災以降、災害リスクに関する一般的な認知は高まっているように見える。しかし一方で、各家庭での減災への取り組みは十分ではないとの調査報告もある。人はなぜ、災害に対して適切な備えをしようとしないのだろうか。心理学的側面から、減災に対する人の行動について考えてみたい。
災害リスク情報に対する人々の反応
「南海トラフ巨大地震の被害想定」が内閣府から2012年8月に公表されました(第一次報告)。このような被害想定が一般の人々にいかに捉えられたのかを知るために、私たちの研究グループでは、公表から約7ヶ月経った2013年3月に一般成人1000名を対象としたWebアンケート調査を行いました。
その結果、「近い将来に国が発表した最大級のものが来ると思う」と回答した人は32.6%、「遠い将来に国が発表した最大級のものが来ると思う」と回答した人は10.8%でした。合わせて43.7%もの人々が、国の想定した最大級の地震や津波が発生すると信じていることがわかります。「今回の想定のような最大級のものは来ないだろうが、いずれ南海トラフ沿いの地震や津波は来ると思う」と冷静に捉えていた人は30.2%でした。国が想定したような最大級の地震の発生確率は極めて低いと伝えられているにもかかわらず、多くの一般の人々は、あたかもそのような地震や津波が発生するのだという錯覚をしてしまっていることがこの調査結果からわかります。
しかし、このように非常に災害のリスク認知が高まっているかに見えるにもかかわらず、私たちが適切に災害に備えようとしないのはなぜなのでしょうか。災害に対する人間の心理について考えてみましょう。
災害リスクに対する無力感
そもそも被害想定は何のために行われているのでしょうか。南海トラフの被害想定を発表した内閣府の資料によると、被害想定は、「被害規模を明らかにすることにより防災対策の必要性を国民に周知すること、広域的な防災対策の立案、応援規模の想定に活用するための基礎資料」とすることを目的として実施するものである、と記されています。また、「あわせて、対策を講ずることによる具体的な被害軽減効果を示すことで、防災・減災対策を推進するための国民の理解を深めるものである」とも書かれています。