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情報誌CEL

松隈 章

2015年11月02日

コラム「衣食住遊」 「聴竹居」に学ぶ日本人の暮らし

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2015年11月02日

松隈 章

住まい・生活

ライフスタイル
住宅
その他

情報誌CEL (Vol.111)

ページ内にあります文章は抜粋版です。
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灯台もと暗し、自らのことはなかなか分からないものだ。
ここ数年、インバウンドという言葉をよく耳にするが、京都や東京などの著名な観光地に限らず、各地で外国人観光客の姿を目にすることが多い。私たちが忘れている日本の優れたところを彼らが敏感に感じ取り、貪欲に体感、吸収している。一方、無国籍なデザインの建物に住み、おびただしい情報が飛び交う現代日本において、日本人が「日本人の暮らし」を意識することはほとんどない。ところが、その「日本人の暮らし」の原点を教えてくれる理想の住まいが、京都・大山崎にある。今も約90年前の姿のままひっそりと佇む、建築家・藤井厚二(1888〜1938)の自邸「聴竹居」(1928年竣工)だ。
藤井は、教鞭をとった京都帝国大学で自らはじめた環境工学の知見を活かし、日本の気候風土と日本人のライフスタイルや感性に適合した、新しい時代の「日本の住宅」を志向し実践した建築家。世界の気候風土と比べつつ、「聴竹居」を実例として図面や写真で紹介しながら、「日本の住宅」という考え方を欧米に紹介する英文書"THE JAPANESE DWELLING-HOUSE"(明治書房刊。以下、邦訳は全て松原裕美子氏による)を1930年に発行している。
同書中、藤井は床の間について、「日本の住宅内部の装飾は、非常に簡素だが趣味の良いものである。欧米の住宅ではしばしば絵画や彫刻が豊富に、しかし乱雑に並べられ、季節を通じて不変のままであるのとは非常に異なっている。このような方法で住宅の芸術品展示室をつくる代わりに日本の部屋は床の間と呼ばれるもの、すなわちアルコーブを持っている。それが部屋の最も目に付く部分を占めており、芸術品が中に配置されている。芸術品以外にも花やその他の美しい自然の品々がそこに置かれる。調和が日本の家の装飾の真髄であり、(中略)床の間では、そこに目を留める人への啓発のためにふさわしく配置された品物によって一種の無言劇が演じられている」という。また、縁側について、「日本の家では、主な部屋は外側に縁側があり、その上には大きく突出した軒があるため、部屋の内部と外部の境界線がどこにあるのか厳密にいうことは難しい」と記す。日本人の生活感覚にも触れる、注目すべき指摘だ。

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