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情報誌CEL

井戸 理恵子

2015年11月02日

コラム「日の国ニッポンの理」 連綿と続く命の種

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2015年11月02日

井戸 理恵子

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情報誌CEL (Vol.111)

ページ内にあります文章は抜粋版です。
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毎年11月になると、和菓子店には大豆、小豆、柿や栗などを入れた「亥の子餅」と呼ばれる餅が軒先に並びます。これは本来、旧暦10月(亥の月)の亥の日、亥の刻(午後9時〜11時)にこうした亥の子餅を食べると病気にならないという中国の俗信によるものですが、我が国では平安時代に宮中行事として取り入れられました。猪の多産にあやかって子孫繁栄と無病息災を願い、この餅を供えるのです。
やがて行事は庶民の間に広まります。農村ではこの時期、稲の収穫期にあたります。田の神への感謝と翌年の豊作を祈願する「亥の子」祭、「亥の子」の祝いが行われました。祭では、子どもたちが家々を回り、「い〜のこ、いのこ〜」と亥の子歌を歌いながら、数本の縄を放射状につけた丸石で地面をたたく「亥の子突き」が行われます。この行為は収穫を終えた大地に再びエネルギーを蓄えて来年の英気を養うため、また、作物を食い荒らす土中のモグラを払うためであり、特に子どもたちが無邪気に遊ぶほど、より強い効果をもつとされておりました。
一般に西日本に定着した「亥の子」に対し、東日本には、旧暦10月10日に行われる「十日夜(とおかんや)」があります。10月10日は、春に山から来られた田の神が、稲刈りが終わって山に帰る日。おそらく、亥の子と同じような作用があるのでしょう。やはり子どもたちによる行為が祭の中心です。稲の茎を束ねて作った藁苞や藁鉄砲で地面をたたきながら歩き回るのです。一方、大人たちは刈り入れが終わった田から案山子を持ち帰り、田の神として祀ります。
収穫に感謝し田の神を祀るこうした祭は、餅に入れられた穀物や木の実のように、翌年の豊かな実りを約束する「種」を象徴しているかのようです。生まれて、死んで、また生まれるという生命の連鎖の中の「種」。それは十月十日で生まれてくる人の命にもあやかったもの。つまり、十月十日は胎内に宿した新しい命として抱く時間というわけです。また「亥」は、時刻の「刻」から「?(刀)」を省いたトキを意味するものでもあります。日々刻一刻と刻まれる時間に命の再生を感じとっていたのではないでしょうか。
そして「とおかんや」。この謎めいた言葉の中にも、先人たちの経験から培われた多くの知見がしたためられているように思われます。
今年の亥の子、とおかんや。自らの中に潜む「種」=「来年の兆し」を見つめ直す機会と考えていただいてはいかがでしょうか。
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