情報誌CEL
奥深いからこそ革新的なアプローチもできる能 リチャード・エマート
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2016年11月01日
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情報誌CEL
(Vol.114) |
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日本の伝統芸能のなかで、特に「能」を語れる日本人が果たしてどれぐらいいるだろうか。「世界最古」の古典演劇といわれる能には、実は奥深さだけでなく革新的な要素も多く存在している。
そこで40年以上能を勉強し、仕舞教士として指導を行うほか、英語で能を演じる演劇集団「シアター能楽」を立ち上げるなど、能を深く知るリチャード・エマート氏に、その歴史的な奥深さだけではない現代の能のあり方、英語能という画期的な試みなどについて伺った。
言葉ではなく、まず身体でぶつかった能との出会い
歌舞伎は観るけど能はちょっと……そんな日本人は少なくない。日本文化を代表し、その奥深さを象徴する芸能であることはわかる。しかし、能の魅力を説明しようとしてもうまく言葉にはできない。そして、ろくに何も知らないことに気づくのではないだろうか。
「歌舞伎と能の違いは、小説(散文)と詩(韻文)の違いと少し似ているかもしれませんね。小説の方がとっつきやすいし、読む人も圧倒的に多い。今、詩集を読む人は少ないけれど、詩でなければ伝えられない、深い世界やニュアンスもあるでしょう」。そう語るリチャード・エマートさんは、アメリカのオハイオ州生まれ。日本で40年以上にもわたり能の仕舞や謡、囃子を学び、あらゆる側面から能を実践してきた、希有な人物だ。現在は、日本の大学で能を中心に日本とアジアの伝統芸能を教えながら、「シアター能楽」という演劇集団を率い、英語能の制作と上演も行っている。
「能を習っている、能を勉強していると日本人に話すと、よく驚かれました。あなたに能がわかりますか?という反応です。たぶん、それは能のストーリーや謡(台詞や歌)が言葉として理解できますか?という意味なのでしょう。けれども、能はただの台詞劇ではありません。たとえばオペラがそうであるように、音楽や所作、衣装など、感動したり理解したりする方法はひとつではないのです」
言葉よりも先に、まずは身体表現や音楽表現としての能の世界に飛び込んでいった。初めて「能を演じた」のは、初来日より前の1970年。早稲田大学とも提携していたインディアナ州のアーラム大学で受けた能のゼミで、英語能『聖フランシス』のシテ方(主人公)に抜擢されたのだという。
「振付はアメリカでも有名なモダンダンサー。フルートによる笛の音もよく研究されたもので、能らしさを出そうと工夫していました。しかし今、振り返ると、あれが厳密に能と呼べるのかどうかはわかりません。私自身もその後、これほど能にのめり込むとは思っていませんでした」