CEL編集室
2018年07月01日作成年月日 |
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2018年07月01日 |
CEL編集室 |
都市・コミュニティ |
コミュニティ・デザイン |
情報誌CEL (Vol.119) |
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長年にわたる洪水との闘いを強いられてきた小国ながら、「子どもの幸福度」は世界一、欧米屈指の低失業率で安定感を誇るオランダ。その災害や不確定な時代を創造的に生き抜く術の一端として、産学官に市民を加えた四位一体のイノベーションを実践する非営利団体ワーグと、多様な人材・企業の交流から先端テクノロジーを生み出すハイテクキャンパス・アイントホーフェンの2カ所を訪問し、責任者にそれぞれお話を伺った。
歴史的建築のなかにある、オープンな実験室
水色のゴム手袋をつけた白衣の人たちが、さまざまな試薬の入った試験管やシャーレにのった色つきの標本を慎重に扱っている……。まさに、それは「実験室」という言葉からイメージする通りの光景。しかし、ここにはなぜか訪れた人をほっとさせるような安心感も漂っている。「研究」や「開発」につきものの、秘密めいたひりひりするような緊張がないのだ。
「この部屋は、オープン・ウェットラボと呼んでいます。ご覧の通り、生物学や化学といった分野の研究を行うことができる施設ですが、ここで行われる実験や研究は、インターネットのストリーミングで世界中に配信されます。そういうオープンなやり方で社会的に知識をシェアするのが、ここのやり方です」
案内してくれたワーグのディレクター、バート・テュニッセン(Bart Tunnissen)氏によれば、こうしたラボが使われるのは、ただ市民の探究心や知識欲に応え、楽しみを広げるためだけではない。行政や企業の依頼を受け、バクテリアの色素を使った新たなインクなど、さまざまな実用的な研究が進められているというのだ。市民に開放し、情報共有することで新しいものを生み出す。ワーグはそんな創造的な「オープンイノベーション」を実践するための場所であろうとしている。
「オランダ黄金時代といわれた17世紀、この建物の1階部分は『計量所(Waag)』として使われていました。世界初の株式会社として知られるオランダ東インド会社が本社を置いたアムステルダムにおける、いわば貿易センターのようなものでしょう」
アムステルダムの市民にとって、この場所はどんな意味をもつのか? テュニッセン氏は壁に掛けられた一枚の複製画を示しながら、その歴史的な経緯を説明してくれた。ここワーグを舞台に描かれ、画家レンブラントの名声を決定的にした名画『テュルプ博士の解剖学講義』(1632年)である。
「この上階部分には外科医たちのギルドもありました。市議会の承認により、死刑にされた罪人の解剖がここで行われていましたが、参加していたのはギルドの医師だけではありません。当時アムステルダムの経済だけでなく文化的成長も下支えしていた裕福な商人たちにも見学が許され、多くの人々が最新の知識を分かち合うような形で解剖の講義が行われていたのです」