CEL編集室
2018年07月01日作成年月日 |
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2018年07月01日 |
CEL編集室 |
都市・コミュニティ |
コミュニティ・デザイン |
情報誌CEL (Vol.119) |
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企業城下町のフェンスが引き倒された
20世紀から21世紀へ。オランダ南部のアイントホーフェンは、時代の変貌を最も印象的な形で体現した都市かもしれない。かつてそこは、総合電機メーカーとして世界にその名をとどろかせたフィリップスの企業城下町だった。しかしフィリップスは21世紀に入ると不採算部門の売却を進め、現在までにヘルスケア製品・医療関連機器のメーカーへと生まれ変わった(2001年に本社はアムステルダムへ移転)。巨大企業の研究開発部門がつぎつぎと解体していく過程でアイントホーフェン中心部につくられたのが、ハイテクキャンパス(HTC)・アイントホーフェンだった。「20年ほど前、ここには、ひとつの企業のひとつの研究所しかありませんでした。2018年現在では170もの企業が集まっています。閉鎖的な研究開発から、外へ向かって開かれたオープンイノベーションへの大転換が起きたのです」
急激な変化を要約してくれたのは、HTC の事業開発ディレクターを務めるセース・アドミラール(Cees Admiraal) 氏。今、ここには「母体」となったフィリップスグループのほか、IBM、Intel、Canon などの企業や研究所がつぎつぎと立地し、1万人以上の研究者と技術者、それに起業家たちが働いているという。印象的なのは、「研究都市」というような言葉からイメージされるような静謐さよりも、何かが起こりそうな活気にあふれた躍動感、そして何よりも人の多様性だ。アドミラール氏によれば、キャンパスが約1キロ平方メートルと全体がコンパクトに設計されているのも、人と人を結びつける意図があるからだという。
「それぞれの建物には食堂をあえて置かず、キャンパス内にあるレストランがある建物に人が集まるようにしています。ランチやディナーは出会うための重要な機会でもあるのです。ほかにも、さまざまなイベントを提供して情報交換やコネクションづくりをするためのカジュアルな場をつくるのが、私たちの重要な仕事です。異なる人々が出会い、刺激し合い、情報を交換し合い、協働できるような環境。私たちはここにひとつのエコシステム(生態系)をつくろうとしています」
フィリップスが取り入れたのは、カリフォルニア大学バークレー校教授のヘンリー・チェスブロウ(Henry Chesbrough)氏が提唱する「オープンイノベーション」という考え方だった。自社のなかに囲い込むという従来の研究開発にかわり、大学や研究所だけでなく、ほかの企業、とりわけスタートアップ企業との連携を積極的に活用していく。チェスブロウ氏は、フィリップスで起きた変化を「まさにフェンスは引き倒された」と表現したそうだ。