宇都宮 浄人
2018年11月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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媒体(Vol.) |
備考 |
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2018年11月01日 |
宇都宮 浄人 |
都市・コミュニティ |
まちづくり |
情報誌CEL (Vol.120) |
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地域を再生するためのさまざまな取り組みは、果たしてどれだけ成功しているのだろうか。
その成果、実態がなかなか見えてこない地方のまちづくりの可能性を、全国規模で「生活意識調査」を実施した大阪ガス(株)エネルギー・文化研究所と関西大学で交通経済学などを教える宇都宮浄人氏との共同研究により導き出す。
実際の地域の声に照らした公共交通とソーシャル・キャピタルとの有益な関係性とは?
はじめに
「クルマがないと暮らせない」というセリフをよく耳にする。地方都市の中心市街地はシャッター街となり、買い物には郊外のショッピングセンターまでクルマで出かけなければいけない。大都市圏でも中心部から少し離れると同じような状況にある。バスや鉄道もないわけではないが、総じて運行本数は少なく、日常的に使いにくい。その結果、「買い物弱者」や「交通弱者」が生まれ、社会的排除が問題になっている。
これに対し、海外、とりわけヨーロッパでは、人口10万人以上の都市であれば、シャッター街はみられない。街中はクルマが規制され、歩行者と公共交通だけが行き交うトランジット・モールと呼ばれる商店街が、老若男女、さまざまな人で賑わっている。ヨーロッパとて、クルマ社会であることに変わりはないが、公共交通をまちづくりのツールとして活かし、都市・地域の再生が進められている。
本稿では、このような交通と都市の再生の一体的な取り組み、つまり「交通まちづくり」について、海外の動向も踏まえて考察する。特に、後半ではソーシャル・キャピタルと呼ばれる人間関係の絆と交通の関係について、筆者が大阪ガス(株)エネルギー・文化研究所(以下、CEL)と共同で実施した研究を紹介し、成熟社会において公共交通が重要な役割を果たすということを論じたい。
公共交通と地方都市の衰退の悪循環
クルマ社会の進化と都市の衰退は、スパイラル的に進行する。自家用車の普及によって、利用者が減った交通事業者は、コストを削減するために、新たな投資を抑え、運行本数を減らす。公共交通が不便になると、クルマに頼る人はさらに増え、買い物もクルマが便利な郊外のショッピングセンターに流れる。郊外開発が進み、都市がスプロール化する一方、駅前に続く中心商店街は衰退する。そのことが、ますます公共交通の利用者の減少と自家用車依存につながるという悪循環である。