情報誌CEL
「ルネッセ」を総括する
−五感で学ぶ、上品で上質な大阪の文化 「上方生活文化堂」が取り戻していること
作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
カテゴリー |
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備考 |
2019年03月01日
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池永 寛明
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都市・コミュニティ
住まい・生活
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コミュニティ・デザイン
地域活性化
ライフスタイル
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情報誌CEL
(Vol.121) |
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「うるさい」「きたない」「品がない」……要約すれば派手で下品で幼稚。他地域から見た大阪のイメージというと、このあたりが「定番」になって久しい。そして当の大阪の人もそれを甘んじて受け入れているように見える。
しかし本当は、こうしたイメージの定着は1960年以降のことで、それまでの大阪には上品で上質な生活文化があったのだ――と言っても「ほんま?」と訝しげな反応が返ってくることが多い。
それくらい今の大阪の人は、「大阪の良さ」に気づいていない。自分たちが踏みしめている地に根付く、厚みある歴史や文化を知らないから、「それはちがうで。ほんまの大阪はこれでっせ」と、反論できるだけの言葉を持てないのである。
文化講座「上方生活文化堂」を企画した背景には、そうした現実への危機感があった。
大阪市内天王寺区界隈に「天王寺七坂」と称される、四天王寺から谷町九丁目までの谷町筋西側に分布する7つの坂道がある。ほとんどの坂が細い石畳と石段で構成されているうえ、周辺に寺院が密集する地域ということもあって「ここは本当に大阪?」と驚くほど閑静な風情が漂う。
私は外国の方をご案内する時は、必ずここへお連れすることにしている。それは、失われてしまった上方生活文化の香りがここには残っているからである。
そう、まだそういった場は大阪のそこかしこにわずかながら残っている。今ならまだ、体感できる。そんな思いで2017年10月より始めた「上方生活文化堂」は、吉田家住宅という今も人が住まう100年住宅を会場とした。暮らしの気配が濃厚に存在する場はそこにいるだけでも、五感に強く訴えかけるものがあったと思う。
講座の詳細についてはすでに本誌過去号や、今号では谷直樹「大阪くらしの今昔館」館長が詳細に書いてくださっているので、ここではそこから得られた成果について見ていきたい。
「上方生活文化堂」は、フェーズ1、全12回の講座を終えている。受講者定員20名という少人数ながら、毎回濃密な内容が繰り広げられた講座では、回を重ねるごとに講師と受講者の関係性も「話す人」「聴く人」の一方通行ではなくなり、時に受講者側からのアプローチもあった。たとえば、蝦夷地から大坂まで海路による物流を担った北前船が、当時の大坂の産業・経済・文化を育てたことはご承知だろう。受講者のなかにそうした廻船問屋の末裔がおられ、家に残る貴重な資料類を持ち込んで解説してくださったことがあった。