競技スポーツに関心が向きがちな日本とは異なり、ドイツでは、スポーツがあらゆる人にとって身近で、都市内のコミュニティの「場」作りに欠かせないものとして捉えられている。市民が自発的に運営する地域総合型のスポーツクラブが町中にあり、地域を活性化する強力なエンジンになっているという。なぜ、ドイツで、このようなスポーツクラブが発展できたのだろうか。日本で、市民主体のスポーツクラブをもっと興隆させるにはどうしたらよいのか。在独ジャーナリスト・高松平藏氏の報告から考察する。
「ドイツにはスポーツクラブがたくさんある」といっても、ピンとくる人は少ないと思う。日本でも少しずつ増えてはいるが、実情はドイツとかなり異なる。彼の国のスポーツクラブは地域社会の一部であり、また地域社会を発展させていくエンジンのひとつでもある。
はじめに――NPOで都市はもっている
ドイツも日本も、いわゆる「先進国」だが、社会の肌触りのようなものはかなり異なる。当然といえば当然なのだが、風土、歴史といったものから、社会に対する個人のあり方といったものにいたるまで様々な要素の編み上がり方が違うからだ。
私はバイエルン州北部のエアランゲン市(人口約11万人)に住みながら取材、観察、調査を継続的に行っている。すると行政、政治、市民活動など、様々な要素がどのように関連しあって、町が成り立っているのかがある程度見えてくる。
その中でひとつ重要なのが、NPOに相当する組織だ。数だけでいえばドイツ全体に約60万ある。日本で現在5万2000程度[*1]だから「桁違い」とはこのことだ。日本に比べて歴史も古く、発展経緯も違うのでしかたがないが。この数の多さは地方都市にも反映されている。エアランゲン市の人口は、大阪市でいえば阿倍野区など、「区」レベルだ。その人口規模の町に、NPOに相当する組織が約740ある。
これだけあると、必然的に町の中で、なくてはならない存在になる。専門的な知識・技術・ノウハウが蓄積されてくるし、社会に必要なサービスを提供するところも少なくない。それは一般市民向けのような性質のものもあるし、自然保護のように専門性が高く社会運動に近いことを行うところもある。自前のギャラリーを持ち、地域のアートシーンを作っているケースもある。
*1 内閣府NPOのホームページより(2018年12月28日閲覧)
https://www.npo-homepage.go.jp/about/toukei-info/ninshou-seni