山本 秀樹
2020年07月01日作成年月日 |
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2020年07月01日 |
山本 秀樹 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.125) |
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学校の教育――自発・自律する学び
世界最難関大学ミネルバが提起する高等教育の未来像
創立3年で学生のクリエイティブ思考力の評価が全米トップとなり、約150人の募集に世界から2万人以上が受験する最難関校、それが世界の7都市をキャンパスにするミネルバ大学だ。最高の教育を、適正な価格で、より幅広い人々へ――真の高等教育革命を目指す、その理念と実践とは。創立者ベン・ネルソンのビジョンに深く共鳴し、日本連絡事務所の代表を務めた山本秀樹氏に伺った。
教育を取り巻く状況への疑問から生まれた”真のエリート大学„ローマ神話における知恵の女神の名を冠した、ミネルバ大学(Minerva Schools at KGI)[*1]は2014年9月に開校した。「高等教育の再創造」を掲げる教育事業会社ミネルバ・プロジェクトにより起ち上げられた同大学は、その誕生自体が”事件„というにふさわしい画期的なものだった。「創立者ベン・ネルソンは、名門ペンシルバニア大学ウォートン校を卒業しシリコンバレーで成功を収めた起業家[*2]ながら、現在の大学教育の質に大きな疑問と問題意識を抱いていました」
早くからネルソンの思想に共鳴し、直接その意見を聴く機会にも恵まれたという山本氏は、ネルソンが抱いた問題意識を次のように要約する。「第一は、大学と実業界の『社会に出る準備』や『期待している職業技能』への意識の乖離です。14年にギャラップ社が実施した意識調査で『学生は社会で活躍できる準備ができていると思うか』との質問に、大学経営者の96%が『そう思う』と答えたのに対し、企業側はわずか11%、このギャップは大きな問題といえるでしょう。
一方、こうした認識の差の背景にあるのが、教育方法の効果と偏った国際経験の問題です。前者でいえば、情報技術を駆使した教育、いわゆるEdTechが急速に進化しているにもかかわらず、既存のほとんどの大学では社会から隔絶したキャンパスで、教員が多くの学生に向けてひたすら話すだけの講義形式が今なお主流です。後者の国際経験という点でも、海外で学ぶ学生は世界のわずか2・5%とごく少数のうえ、その多くが北米と欧州をはじめとする西欧文化圏でしか学んでおらず、多様性の点でおおいに疑問符がつきます」
*1 事業主体のミネルバ・プロジェクトが、クレアモント大学系列のケック大学院(Keck Graduate Institute)と提携するかたちで大学を設置したことから、この名がついた。
*2 2000年から2010年まで、オンライン写真印刷会社スナップフィッシュで財務担当取締役とCEOを務めた。