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情報誌CEL

姫野 カオルコ

2020年11月01日

滋賀の子供、都会の大人

作成年月日

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備考

2020年11月01日

姫野 カオルコ

住まい・生活

ライフスタイル

情報誌CEL (Vol.126)

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大阪ガス、それは、向こうのほうに颯爽と見える都会であった。
大阪ガス、それは、どぎまぎさせてくる大人の男であった。
都会。
どぎまぎさせてくる大人の男。
大阪ガス。
これらが重なるのは、私が滋賀県生まれだからである。
いかなる次第で重なったか、それを話そうと思う。ただその前に、滋賀県出身という不便な事情について、少しふれておこう。
琵琶湖は何県にあるか?
知らない人が多い。首都圏在住者には。
厳密に調査すれば、そんなはずはないのだろうが、知らない人に接することがあまりにも多かった個人的体験で、「知らない人が多い」と感じるのである。
『忍びの滋賀』という新書を著すにあたり、区民プールや、民営ジムや、カラオケボックスなどで、「琵琶湖は何県にありますか?」という質問をしたところ、「ごめんなさい。わかりません」「えっ、すみません。地理は苦手で」と答える人が続出した。「東北地方」「北海道のどこか」と答えた人も少なくなかった。
大阪府民も京都府民も滋賀県民も奈良県民も兵庫県民も三重県民も和歌山県民も(五十音順)、同じ近畿地方ゆえに、互いに微妙なライバル心を燃やしたり、どこか見下げる気持ちを抱いていたりするかもしれない。
だが、琵琶湖が何県にあるか知らないと首都圏在住者から言われた事態については、日ごろの細かな感情は措いて、ここはどうか、近畿一丸となって「がーん!」となってほしい。頼む。
この(首都圏では)無名の湖のほとりに、私が住んでいたのは高校生までである。もう何十年も昔のことである。
無名の湖のほとりの、小さな町。
学齢前には、洗濯をする母親の手伝いで、洗濯板を持って歩いた。川まで。
そう、柄のついた手動ポンプで井戸から盥たらいに水を汲むのが大変だから、川まで行って洗濯をしていたのである。昭和三十年代の晴れた日の川べりには、そんな親子が、何組もいた。洗ったあとの水は、無名の湖に流れ、冬場の暖房は、練炭火鉢だった。
洗濯機がわが家で活躍するようになったのは、私が小学校に上がった昭和四十年からだ。これは手動ではなく電気で動いた。局所暖房として電気ストーブも使うようになった。照明は、以前よりさすがに行灯ではなく、電気だったから、関西電力にはずっと料金を支払っていた。
だが大阪ガスには支払っていなかった。
わが家がガス代を支払っていたのは、T燃料店だ。Tさんが、灰色の重たいボンベに入った気体を、定期的に運んで来てくれ、彼に代金を支払っていた。

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