橋爪 節也
2021年07月01日作成年月日 |
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2021年07月01日 |
橋爪 節也 |
都市・コミュニティ |
まちづくり |
情報誌CEL (Vol.128) |
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第4回 呼び覚まされるとんがった時代の感覚
――EXPOʼ70と前衛音楽
「一九七〇年の音を聴く」と銘打ち、今年一月、芦屋市民センターのルナ・ホールで、ドイツの作曲家カールハインツ・シュトックハウゼン(一九二八〜二〇〇七)の二台のピアノと電子音響のための『マントラ』が演奏された。
『マントラ』は仏教の「真言」のことで、作曲家が大阪万博の西ドイツ館での演奏に来日中、京都、奈良で着想を得た作品である。
二人のピアニストは向きあって禅問答や演歌にも似た旋律の断片を奏で、電子音響が流される。さらに手元で打楽器を操り、木魚や鉦を思わすリズムを叩いていく。作曲から五十年を経ての関西初演だが、ホールには一九七〇年の万博会場の空気が充満した。
大阪万博は当時中学一年生の私が、前衛芸術を初体験した場でもある。
鉄鋼館では、天井から床下までを埋め尽くしたスピーカーから流れるヤニス・クセナキス(一九二二〜二〇〇一)の『ヒビキ・ハナ・マ』を聴いた。ギリシャ生まれの作曲家はル・コルビュジエに建築を学び、一九五八年のブリュッセル万国博覧会ではフィリップス社のパビリオン設計にも携わっている。曲名は「響き」「花」「間」に由来し、「スペース・シアター:EXPOʼ70鉄鋼館の記録」(ソニー・ミュージックレーベルズ)で聴くことができる。
三菱未来館では、動く歩道で突き進む観客を、『ゴジラ』の田中友幸プロデュース、円谷プロが制作した火山の噴火や大津波などの特撮映像が押し包んでいく。音楽を伊福部昭が担当し、大好きな怪獣映画のスクリーンに投げ込まれた感じだった。
一八八九年のパリ万博ではドビュッシーがガムラン音楽に触発されたが、大阪万博でも世界の民俗音楽とともに、先端の音楽が鳴り響いた。会場に押しかけた観衆も、未来的な音響の世界を、とまどいながらも体感したに違いない。
大阪では、一九六三年(昭和三十八)から「“大阪の秋”国際現代音楽祭」(第十五回で終了)が開催され、美術では、吉原治良をリーダーとする具体美術協会が、本拠地である中之島の美術館「グタイピナコテカ」で積極的に活動していた。
『マントラ』の関西初演で、そうした時代の記憶がよみがえった。このとんがった時代の感覚が好きである。