塩野 誠
2021年11月01日作成年月日 |
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2021年11月01日 |
塩野 誠 |
住まい・生活 |
ライフスタイル |
情報誌CEL (Vol.129) |
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政治・経済・社会すべての面で、デジタル改革の必要性がさけばれつつ、遅々として進まない日本の現状に欠けているものは何か。
それを探る上で注目すべきなのが、デジタル化の先進地域である北欧バルト8カ国だ。
少ない人口と高い税率、資本や資源も限られた同地域が危機意識をもってICT産業の一大中心となった過程には、わが国の20年、30年先のあり方を予見し、進むべきロードマップを描くための指針が隠されている。
単なる技術力だけでないデジタル・イノベーションの条件と、その先にある持続可能な社会、幸福の形について、同地に本拠を置くベンチャーキャピタルNordicNinja VC 取締役の塩野誠氏にお話を伺った。
「国がなくなるかも」という危機感が出発点
「北欧バルト」が今、イノベーションにおける先進地域として注目されている。シリコンバレー、イスラエル、あるいは中国の深圳市やロンドンのテックシティなどと並び、最先端のデジタル“ユニコーン”が次々に生まれつつある、いわばホットスポット。一例をあげれば、スウェーデンの音楽配信大手Spotifyが2018年にニューヨークで上場したのは記憶に新しく、ほかにもエストニアで創業された国際送金のフィンテック企業「Wise(旧Transfer Wise)」は21年7月にロンドンで上場して大きな話題となった。今や、コミュニケーションツールの世界標準となったSkypeもエストニア発と聞けば、驚く人も多いかもしれない。「イノベーション先進地域」と聞いて、どんなイメージを抱くだろうか。世界中から優れた頭脳を集め、先見の明とともに大規模な投資を行う? 厳しい競争を勝ち抜いたスターが続々と生まれ、あるいは消えていく? どちらかといえば、血も涙もない、容赦のない「弱肉強食」といった言葉を思い浮かべる人も多いのではなかろうか。一方で、もともと私たちがこの地域に対してもっていたステレオタイプな理解は、高福祉に支えられた幸福度の高いリベラルな社会といったものだろう。どちらかというと、厳しい競争とは遠いものだった。
そんな北欧バルト地域で今、何が起きているのか。イノベーションを生み出す種はいつ、どこで、どのように撒かれたのか。そしてまた、シリコンバレーとは違う論理によって新しいイノベーションを生み出しつつあるこの地域から、日本は何を学べるのだろうか――。「ひと口に北欧バルトといっても民族や言語、歴史も違いますし、社会のあり方もそれぞれ一様ではありません。ただ、イギリスやフランス、ドイツといった大国を除く他のヨーロッパ諸国と同様に、規模が小さいながらも独自の言語や文化をもち、しかも(島国であるアイスランド以外)地続きで隣国とつながっているなど、大まかな特徴は共通しています」