橋爪 節也
2022年09月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2022年09月01日 |
橋爪 節也 |
都市・コミュニティ |
まちづくり |
情報誌CEL (Vol.131) |
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as time goes by……
タイムカプセルの中にカプセルがもう一つ
大阪万博で松下館に展示され、閉会後に大阪城本丸の地下十五メートルに埋設された「タイム・カプセルEXPO'70」。
松下電器産業(現・パナソニック)と毎日新聞社が企画製作し、自然科学、社会、芸術など、二十世紀の文化所産2098点が、特殊金属製のカプセルに収納されている。カプセルは二基あり、一基は毎世紀の初頭に開かれ、すでに2000年に一回目の開封が行われた。もう一基は、万博から5000年後の西暦6970年に開封予定である。
「タイムカプセル」という言葉は、1939年のニューヨーク万国博覧会で、遠い未来に文明が崩壊している可能性も考え、現代文明の成果をカプセル「タイムボム(時限爆弾)」に入れ会場に埋めたことに由来するらしい。実際は「タイムボム」が刺激的なので、名称を「タイムカプセル」に変更した。
万博当時、中学一年であった私は、現代文明の成果を容器に収め、遠い未来に開封するという考えにロマンを感じた。全国の学校で、卒業生が未来の自分宛の手紙をつめた「タイムカプセル」を作ったのも万博の影響だろう。
しかし「タイムカプセル」には明るいカプセルと暗いカプセルがありそうだ。資料のデータベース化が進む現代にあって、未来に情報を伝えるロマンは薄らいだ気もするし、「タイムカプセル」を生んだニューヨーク万博は、未来社会の崩壊を意識するなど、どことなく世紀末的な世界観が漂う。
日本では永承七年(1052)に"末法"の世に入るとされ、経典が滅びないよう経筒に収めた経塚が造られた。これも一種の「タイムカプセル」だろう。古代ローマの生活を、火山灰に閉じ込めたポンペイ遺跡も、「タイムカプセル」と言えないこともない。
二十年前の開封では、地中でそれを保護するため周囲を囲んだ枠に、「昭和五年一月十日生午年にとり太駄男 太平洋戦争予科練従軍」と書いたサインが見つかった。掘削作業をした作業員の戯筆らしい。この人は昭和五年(1930)午年生まれで、万博当時は四十歳。「太駄男」は「ただお」か。
戦争体験の思いも込めたサインだが、五千年後に開封予定のもう一基の枠にも、「太駄男」のサインがあれば、未来人は私たちの時代をどう思うだろうか。