橋爪 節也
2024年09月01日作成年月日 |
執筆者名 |
研究領域 |
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2024年09月01日 |
橋爪 節也 |
都市・コミュニティ |
まちづくり |
情報誌CEL (Vol.135) |
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"にほふがごとく今盛りなり"
――東大寺七重塔の復元と古河パビリオン
去る4月24日、奈良文化財研究所が発表した天平時代創建の奈良・東大寺七重塔の復元研究を見て、急に半世紀前の万博会場の記憶がよみがえってきた。
未来社会をイメージさせるパビリオンや映像と音響に溢れていたEXPO'70だが、和風でクラシックな外観のパビリオンがあった。一つは竹林に囲まれた松下館であり、もう一つは「古代の夢と現代の夢」をテーマに、高さ八十六メートルの塔の形をした古河パビリオンである。そのモデルとなったのが東大寺に東西二基が建てられた七重塔(現存せず)である。
古河パビリオンは古代日本人が理想のシンボルとして塔に託した"新しい世界"への夢を、現代にも喚起させようとし、外観は歴史的建造物だが、館内には、生活の未来像を反映した「コンピュートピア」という展示室が設けられた。公式長編記録映画『日本万国博』(総監督・谷口千吉)には、人の声に反応してコンピューターが制御するロボットアームのアトラクションが映し出されている。また建物の工法も新しく、プレハブの屋根をリフトアップし、上層部から順に組み立てられ、最上層は回廊式の展望台であった。
古河パビリオンのデザインも万博当時の研究を具現化したものだが、今回、東大寺の委託で最新研究によるあらたな復元案が公表された。万博から五十年後の未来である今年、時間は逆行し、千二百年も隔てた過去が精細に分かってきたのが面白い。
東大寺七重塔の復元案は一層目の大きさが一辺約十五メートル四方で、高さが約六十八メートルである。古河パビリオンより約十八メートル低いが、京都の東寺の五重塔が約五十五メートル、中国・西安の大雁塔が約六十四メートルなので、偉容に変わりはない。六十メートルは現代のマンションで約二十階建てとなり、タワーマンションと呼ばれる物件となる。
古河パビリオンは万博終了後に解体され、東大寺大仏殿の近くに二十三メートルの巨大な相輪が移設された。金色に輝く相輪を見上げるたびに、万葉集に「にほふがごとく今盛りなり」と謳われた平城京と、高度成長期の日本が重なりあい、閑静な奈良を散策しつつも万博の記憶がよみがえる。